第8話 お受験
それから数日が過ぎ、ストロング英雄学校合格発表の日。
「そんな馬鹿な。このぼくが……不合格?」
「なんということでしょう。うちのガモちゃんが落とされてしまうなんて……」
「ごめんなさい」
領主ゲズールは息子を睨みつけた。
「今年の試験は難易度が高いと聞いていたからな。これも想定内だ。ここで落ちても裏口入学すればいいだけのこと。最近、理事長は薄毛に悩んでいるようだし、悪魔の力で悩みを解決してやれば全て上手くいくだろう」
「さすがパパね」
「パパ」
「父親が優秀過ぎるとその子供は環境に甘えて腑抜けになるという。だが、お前はその他大勢の凡庸なる者どもとは根本から違うだろう。ガモ。お前は一族の誇りだ。いずれオレを越えると信じているぞ」
「パパ……。おれ、やるよ。なんでもやる」
「よく言った。それならお前に一つ仕事を与えよう。まずはその辺の――――――――」
「え……? 本当にそれをぼくが……」
「できないのであれば、お前が痛みを我慢するしかない」
「い、痛いのは嫌だ」
「そうだろう。じゃあ、今すぐやってこい」
「はい」
ガモはプレッシャーをかけられて学校を飛び出した。
一方その頃。
ルーカスは掲示板で受験番号を探していた。
「あった。……これ、番号あってるのかな……。見間違いとかじゃなく……」
「間違ってないよ。何度も確認した」
「そ、それじゃあ……」
「合格おめでとうルーカス!! 今日までよく頑張ったわね!!」
「……は、ははっ、オレが本気を出せばこのくらい楽勝だっての」
「さっきまでビビってたヤツが良く言うぜ」
「う、うるさいなぁ。試験のほうはそれなりにうまくいったけど。孤児を理由に落とされるって聞いたから不安だったんだよ」
「貴族って陰湿だよな。お前、学校でちゃんとやっていけるのか?」
「いじめられてもくじけないよ」
「……ま、なんかあったらおれらを頼れよな」
「うん」
「今夜は豪華な食事で決まりね!! あたしたちは買い出しに行ってくるからルーカスは先に帰って皆に報告してきなさい!!」
「お祝いはいらないよ。ただでさえみんなのお金を使わせてもらっているのに」
「ルーカス。俺たちはお前の合格にかこつけて騒ぎたいだけだから遠慮しなくていいんだよ」
「そうなのかな……」
「寮生活が始まれば皆で食卓を囲むこともなくなる。だから楽しめるときにうんと楽しもう」
「そっか……、うん。みんなとの時間、大切にしたい」
チームを三つに分けて買い出しに向かった。
食材を買った帰り道。
「――え? ルーカス?」
顔面アザだらけで地面に横たわるルーカスを発見した。
俺は即座に回復魔法を使った。
「も゛も、おねえぢゃん……。う、うっ、うぁあああああああああああああああっ……」
「ひどい、こんな……っ、誰にやられたのッ!!」
「りょ、領主の息子が、お前のせいで受験落ちたからって、悪魔に願いを叶えて貰うには、歯が必要だからって、それで、オレのこと大勢でなぐってきて……っ」
「――ッ、あの男、殺してやる!!」
モモは激情に駆られて領主の屋敷に向かった。俺たちもルーカスの怪我を治したあと急いで彼女を追いかけた。門の傍で警備員たちが気絶している。
「地獄へ落ちろ、ゲズール!!」
全身全霊を込めた一振りは中級悪魔の手によって防がれた。
「……鬼人族の小娘か。挨拶もろくにせず斬りかかるとは見た目通り礼儀知らずの種族だな。まずは冷静になって話し合おうじゃないか」
「ふざけんじゃないわよ!! 息子が受験で落とされたからって、ゴロツキけしかけて、子供一人いたぶるような人でなしに、きちんと向き合う気はないわ!!」
「あれは息子が勝手にやったことだ」
「悪魔に捧げる対価として、歯を欲しがっているのはあんたでしょ。歯を100本集めればダイヤモンドと交換して貰えるのよね。これまでのあんたの所業、孤児院のみんなに聞いて知っているのよ!!」
孤児院の子だけに限らず、アネットも家賃代わりに乳歯を差し出した過去がある。
「乳歯なら失ったところで問題あるまい。オレは誰に対しても平等だ。息子にも同じ要求をしている。そしてあいつは他の者から乳歯を奪うことに決めたのだ。子供同士の可愛い喧嘩に大人が割り込むべきではない」
「じゃあ、息子を差し出しなさいよ。ルーカスがやられた分の報いは受けてもらうから」
「モモお姉ちゃん!! もうやめよう。お姉ちゃんが傷付くのは見たくないから!!」
「ルーカスは下がってて!!」
「我が子に手を出すのなら黙ってはいられない。孤児院を撤去するしかないようだ。お前の浅はかな行動のせいで多くの子供たちが路頭に迷ってしまうな」
「なっ!? さっきと言っていることが違うじゃない!! 大人は割り込まないんでしょ!!」
「オレはこの町の領主だぞ。この町ではオレがルールだ。金に物言わせてゴロツキけしかけて、子供一人いたぶる人でなしに話が通じるわけないだろう。三秒前の自分の発言を忘れるとは余程おつむが弱いらしいな」
ゲズールはにやりと笑った。
「孤児院の奴ら全員に罰を与える。領主に逆らったらどうなるか特等席で見せてやろう」
「な、なに考えてんの」
「動くな!! 僅かでも抵抗の意志を感じたら、その分だけ孤児が苦しむことになるだろう」
中級悪魔は無抵抗になったモモの頭を掴んで引きずりまわした。
「や、やめてよ。子供たちは関係ないでしょっ!! 男らしく一騎打ちしなさいよ!!」
「今一度、領民全員にオレの威光を知らしめる必要がある。まずは爪を剥がすか生き残りをかけてお互いに殺し合わせるか。選ばせてやろう。自分で選択したという事実が大事だ。そうすれば大人しく従うようになるだろう」
「……っ、そんなことさせるわけないでしょうが!!」
刀を振り上げるも中級悪魔の圧倒的な腕力でねじ伏せられた。
「……痛っ、うっ……」
「隙を突けば勝てると思ったか。愚かな」
「……はぁっ、はぁっ、……」
「お望み通り、お仲間の罪を重くしてやる。全員コロシアム行きだ。一個旅団級の魔物に勝てば外に出られるという希望を見せたあと、殺し合わせるのだから会場も大いに沸くことだろう」
「……ご、めんなさい。あたしが間違っていました。罪は全部、あたし一人で背負うから。子供たちは何も関係ないから……。これ以上、酷いことはしないでください……。お願いします」
「もう遅い。良い金の稼ぎ方を思いついてしまったんだ。実行せずにはいられない」
「やめて、ください」
「お前のお陰だ。礼を言おう」
ゲズールはモモに対して興味を無くし、コロシアムを盛り上げることに意識を割いていた。
「そうだ。孤児院を取り壊してあそこにコロシアムを建てよう。ホームレスも罪人も全部、コロシアムの地下にぶち込んでおけば領民の管理もしやすい。良いこと尽くめだ」
モモは死に物狂いで立ち上がり、再度、刀を振り下ろした。
「うぁああああああああああああああああああああああああああっ、なんで効かないの。あたしがこいつを止めなきゃなのに。孤児院を壊させるわけにはいかないのに……っ、やめてよ。誰かこの男を止めてよ!! 誰でもいいから、助けてよッ!!」
その刹那、俺の全身に魔力が駆け巡った。
ありったけの怒りを込めてゲズールの顔面を殴った。
「ぐぁああああああああああああああああっ!!」
吹っ飛んでいくゲズールを見てモモは茫然としていた。
泣きじゃくる彼女の頭を軽くたたく。
「見ているばかりで何もしてやれなくて済まなかった。だけどもう心配はいらない。仲間がやられた分はしっかりとお見舞いするから」
「え? その声?」
「説明はあとだ」
話を中断して遠くを見やる。ゲズールは立ち上がって俺を睨んだ。
「小僧貴様、あのとき屋敷に侵入してきた偽商人だな。孤児院の関係者だったわけか」
「まあ、そういうことだ」
「オレの顔に傷をつけて、無事で帰れると思うなよ」
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