番外編:結月の孤独

 静かな夜、結月は一人、自室のベッドに横たわっていた。お腹の中には、吾郎との間に宿った新しい命が、静かに鼓動を打っている。その温かい鼓動を感じながら、結月は遠い昔の記憶へと心を巡らせていた。


 それは、結月が高校生だった頃のこと。陽平との出会いは、結月の人生を鮮やかな色で彩ってくれた。明るく、心優しい陽平は、結月のすべてだった。二人は深い愛情を育み、やがて、結月は陽平との子供を身ごもった。二人の子供。結月は、その事実に、これまでの人生で感じたことのない、深い喜びと幸福を感じていた。


 しかし、その喜びは、唐突に、そして残酷に終わりを告げた。陽平の乗った車が、交通事故を起こしたのだ。陽平は、結月のお腹に宿った子供の顔を見ることなく、この世を去ってしまった。


 結月の心は、深い悲しみと絶望に覆われた。陽平を失った喪失感。そして、お腹に宿った新しい命を、どうすればいいのかという不安。結月は、一人で、その重すぎる十字架を背負うしかなかった。


 そんな結月を救ってくれたのが、両親だった。父の隆と母の奈央は、結月の話を聞き、結月が産んだ子供を、自分たちの子供として育てると決めてくれた。その時、母の奈央も双子を妊娠していた。まさか出産日が同じになるとは思わなかった。しかし、その優しさに涙を流しながらも、自分の子供を、母親としてではなく、姉として接するしかないことに、深い悲しみを感じていた。


 産まれてきたのは、吾郎と五月という二人の双子だった。吾郎は、陽平に瓜二つだった。吾郎の顔を見るたび、結月の心は、陽平を失った悲しみと、吾郎が陽平の面影を宿していることへの安堵感で満たされていた。しかし、それは、結月の心を深く、深く蝕んでいく。結月は、自分の子供を母親として抱きしめることさえ許されず、妹である皐月、芽依と同じように我が子である五月と吾郎を世話することしかできなかった。その孤独が結月の心を深く沈めていった。


 月日は流れ、吾郎は結月の背丈を追い越し、陽平にそっくりな青年に成長していった。そんな吾郎を見るたび、結月は、亡き陽平の面影を重ねていた。吾郎の優しい笑顔、吾郎の力強い声。結月は、そのすべてに、陽平の面影を見出していた。


 そして、結月は、吾郎に女として接するようになった。吾郎の孤独を理解し、吾郎の心を救ってくれる存在になりたかった。しかし、それは、結月の心の奥底に眠っていた、陽平への愛と、吾郎への罪悪感が入り混じった、複雑な感情の表れだった。


 吾郎と、そして他の三つ子の姉妹、美咲との関係。それは、結月の心の孤独を埋めてくれる、甘く、そして苦しい時間だった。しかし、その甘い時間は、結月が抱える罪悪感を、さらに深く、深く刻みつけていく。


 そして、五人の女性の妊娠。その事実は、結月を絶望の淵へと突き落とした。自分が、息子である吾郎に、許されない関係を求めてしまったこと。その結果、生まれてしまった命。結月は、吾郎と五月、そしてお腹の中に宿った新しい命に、どう償えばいいのか、わからなかった。


 しかし、結月は、下を向いてばかりはいられないと、自らの心を奮い立たせた。母親として、そして、吾郎の内縁の妻として、結月は、吾郎を支え、子供を産み育て、そして吾郎を取り巻く女性たちをサポートしていくことを決意した。


 月日は流れ、結月、皐月、芽依、五月はそれぞれ双子の女の子を産み、美咲は男の子を産んだ。九人もの赤ん坊に囲まれる日々。結月は、その賑やかで、そして温かい日々に、深い充実感を感じていた。


 結月には、もう孤独を感じている暇はなかった。彼女の周りには、彼女を愛し、彼女と共に生きることを選んでくれた、吾郎という男がいた。そして、結月と共に、この困難な道を歩んでくれる、五人の女性たちがいた。


 結月は、五人の女性、そして、九人もの赤ん坊を抱きしめながら、静かに誓った。


 もう、二度と、孤独ではないと。

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禁忌の家族、五つ星の果実 舞夢宜人 @MyTime1969

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