【小説】『王子から王様になった君と、従者だった私』──どうなるかは、自由。

kesuka_Yumeno

名前なんて必要ない。


"これは、ルシアン2世とシャルル2世のお話"


「私の名前を呼んでくれたのは、あの子だけだった。」


それも──よりによって、“精霊さん⭐︎”なんて


──


名前、なんて必要ない。

そうなんだろう。


ゲームをする時、いちいち駒に名前なんて、つけない。

あれ、とって

これ、書いて、

それ、何とかしといて。


何でもできる、ていのいい雑用係。

それが私。

シャルル・アメデ・ド・シャルモン2世の日常だった。


──


大層な名前は何の意味もなかった。

貴族の、公爵家の名前を気まぐれで与えられたが、私の母は市井しせいの出で、父や祖父も、どうも混じり者だったらしい。


だから、身の回りの世話をする者は、私のこと、内心、あるいは直接、馬鹿にしてきたし。

由緒正しい叔父上やその息子もいたので、公爵さまになれるわけもなく。


念のための代替え品として育てられ、その機会もなかったので、ある侯爵……選帝侯の息子であるルシアン2世王子の従者になった。


──


『僕の精霊さん』──ロマンチスト王子と雑用係のはじまり。


はっきり言うと、夢みがちなムカつく糞ガキだった。ルシアンは。

まぁ、私はよくできた従者だったので、態度には出さなかったけど。


──


初対面で、こうきた。

ルシアン「……綺麗……君は誰? 御伽話おとぎばなしに出てくる、精霊……?」


うん?

精霊は、普通に立って喋ったり、控えたりしないと思うよ。


あと、男に、綺麗とか、精霊とか──もしかしてさ、馬鹿にしてるのかな? 君も?

シャルル1世だか、ルシアン1世もロマンチストだったらしいが、君はばっちり、その血を引いてるね?


まぁ、私は混じり者なんで、さっぱりわかりませんがね?


──


シャルル「アハハッ、お褒めに預かり光栄です。今日から、あなたの従者の精霊です」

「よろしくお願いします。ルシアン殿下」


何、言わせんだよ。

糞ガキが。


──


マジでしばらく、“精霊さん” “僕の精霊さん”って呼ばれた。

周りの白い目や、生暖かい目を思い出すと、今でも恥ずかしいよ。


──


「……今思えば、

あれが、唯一、私が“名をもらった”瞬間だったのかもしれない」


馬鹿言うなよ、なんなんだよ、あなたの名前は”精霊さん⭐︎”──

安っぽい小説のタイトルか?


私は幼馴染で従者枠だし?

負けヒロインだとでも、言うの?


阿呆らしい。

さっさとヒロインでも出せよ。

こんな話、退場したい。


──


そろそろ、ツッコミ入れても、ばちは当たらないだろう。

そう思い、ルシアン殿下に名乗りをあげた。


わざわざ、跪いてやった。

一回で覚えろよ?


「あなたの精霊はね? シャルルと言います。従者、でも構いませんよ」


──


きょとん、とした顔で言い返された。

ルシアン「でも……“精霊さん”がいいんだよ。

だって、僕のこと受け止めてくれた“はじめてのひと”だったもん」


うん?

精霊なのか、人なのか、ハッキリしてくれませんか?


ぽやっとした顔して我が強いね〜!

名前はおろか、従者とも呼んでくれないんだ。


困ったね。

お願いしてみるか。


──


シャルル「申し訳ありません、殿下。名前か、おい、従者、でも構わないので呼んでいただけたら幸いです」


ルシアンの瞳が青く、きらきらと輝いた。


ルシアン「でもさ、“シャルル”って呼んでも、君は従者になるでしょ?

“精霊さん”って呼ぶと、

……君は、僕の夢を見てくれる気がしたんだ」


──


お前、本当に夢みがちだね?

鳥肌たったよ。もちろん、悪い意味で。


何?

これ、ガキンチョに口説かれてるの?

私は、夢見ませんけど?


重症だな、侯爵家の未来が心配だよ。

……従者として、ただしてあげるべきですかね。


これは……骨が折れそうだ。


──


跪いたまま、ルシアンの両肩に手を優しく添える。

丁寧に目を交錯させて言う。


シャルル「いいですよ? 今宵も夢にみましょうか? ……ただし、シャルルと呼んで、くださるのなら……ね?」


──


ルシアン、赤くなってるな。

……なんで、この程度で?


ついでに、言っておくか?

念のため、耳元で言って差し上げるか。


シャルル「もちろん、あなたの夢にも、呼んでいただけたら……嬉しい、ですよ」


──


ボッ。


なんだ?

ルシアンが茹蛸ゆでだこになった。


ルシアン「う、うん……わかったよ、シャルル」


──


まぁ、いいか。

ようやく、呼んでくれたね、ルシアン。


君と馴れ合ったせいか、少しばかり赤くなりそうだよ。

合わせてあげるのも、従者の勤めですからね。




続きは自由




🌿プロフィール+イラスト シャルル/Charles Amédée de Châlmon II ▼

https://kakuyomu.jp/users/kesuka_Yumeno/news/16818792439906628319

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