第10話:

 発掘調査の結果、1937年9月18日付けで発見となった「三畳石油」は後の白虎石油と並び、大日本帝国の勢力圏内に存在する貴重な油田として帝国の国威を大いに掲揚することとなった。量では三畳石油が、質では白虎石油が高いとされていたが、問題は無論そこでは無い。この油田の存在は大日本帝国を一躍産油国にすると同時に世界のパワーバランスを大きく変えることとなった。後の白虎石油と共に鳴り響くそれは、大日本帝国の貧血状態を大いに改善すると共に、最早大日本帝国の行動を縛る行為は不可能なものとなった。とはいえ、それが即座にヨーロッパ戦線の帰趨を変えるものとなったわけではないのが、歴史の妙味である。この「三畳石油」が与えた影響は、即効性のあるものではなかった。だが、満洲地区で石油が発掘された事実は、地味ながら、しかし確実に流れを変え始めていた……。


  ……なんともやれやれ。あいつらはマトモに任務を熟せているのかねえ……。

「どうした、オットー。浮かない顔をしているが……」

「ああ、先任。……アミーがチーナに兵を送ったのはご存じでしょう。香港の留守居は無事か思案していたところでして」

「……ああ、それなら実は一報貰っている。読むかね?」

「それはそれは、読ませて頂けるので?」

「ああ、貴官は確か彼達と懇意にしていただろう。特別だぞ?」

「ははっ」

 1936年のラインラント作戦から早くも二十ヶ月。フランスを占領下に置き、イギリスも概ね片付けたドイツ第三帝国は、いよいよソビエト連邦と戦う決意を固めていた。アメリカ合衆国が局外中立を表明したこともあって、一見して可能行動に見えた。だが……。

「さて、連中は勝手口を無事なぎ払ってくれるのかねえ……」

「……満洲で石油が見つかったのは知っているな?」

「ええ、ビッグニュースでしたね」

「だからこそ、彼等は参戦すると思う」

「……なるほど」

「まあ、希望的観測が混じっているがね」

  そして、タバコを吸い始める先任。さすがに国防軍の将軍は高級な葉を吸ってやがる。

「それでは、そろそろ動くぞ」

「ははっ」



 ヒュッカバウヌヤ! ヒュッカバウヌヤ!

    歓声が聞こえる、大方我等の戦車を連中が鹵獲したのだろう。くそっ、あのT34ロジーナはかなり現状貴重だというのに!

「ちっ、誰だフィンランドがさっさと片付くとかほざいていた輩は!」

「……連隊長、さらに悪いイズベスチヤニュース(筆者訳注:よく「新聞」という意味で使われる「プラウダ」は「真実」という意味らしく、いわゆるニュース・報道は「イズベスチヤ」らしい。とはいえ、まあ、共産圏なのでお察しレベルなのは確定。機関誌みたいなもん)です、見ますか?」

「……嫌だと言ってもみなきゃならんのだろう、なんだ」

「……ニーメツ(筆者訳注:ゲルマンスキーという言葉は一等自営業氏の創作らしく、実際には存在しないらしい。ロシア人がこの当時のドイツを罵る場合、大抵は「ニーメツ(「文盲」の意)」、「クラウツ(ハーケンクロイツからか、あるいはザワークラフトからか?)」、「ファシスト(言うに及ばず)」などが主流か。特に「ニーメツ」はドイツ語とロシア語の言語圏の隣接性と言語性が乖離しているためかなり昔よりよく使われている蔑称の模様)が攻撃を開始したそうです。うちらはこのままレニングラード防衛戦のままですが、多くの部隊がミンスクに割かれるそうです」

「……なん、だと……」

    チクショウ、魔女の婆さんの呪い(筆者訳注:これも、実在する「Shit言葉」(なお、ドイツ語では「シャイセ(綴りは確か、「Scheisse」だったと記憶しているが、蓋然性(確からしさ)は低いと思ってネ★)」という)かどうかは怪しいらしい)か!



あー、その、読者がヒく前に言い訳をしておきます。

すまねえ、ロシア語はさっぱりなんだ(アンタ、和製英語すら「ハァ~、サッパリ、サッパリ!」でしょうに……)。

ぶっちゃけ、クドちゃんの本名もマトモに書けるかどうか怪しい(ぉ

……「筆者訳注」部分、邪魔って意見が多かったら編集し直して起きます。

ではでは、続きをどうぞ。



 ドイツ第三帝国は、スオミ共和国と共にソビエト連邦に対して攻勢を開始した。いわゆる38年攻勢である。国防軍や親衛隊は準備不足であり、装備の不備を理由に総統へ苦言を呈したが、ソビエト連邦の、つまりは赤軍の状態はそれ以上に深刻な状態であった……。

「……妙だな」

「ん? どうしたハンス。不思議そうな顔をしているが」

「ああ、大尉。……バルト海にイワンの軍艦がいません。まさか、読まれてましたか……?」

「……読まれていたら、あんな醜態はさらしていないだろう。それに……」

「は、はい」

「もう少し奥にいる可能性もある。君は短気だからな。それではいいパイロットには成れんよ」

「こ、これは申し訳ございません」

「それでは、ハンス、アルフレッド、私についてこい」

「「ははっ!!」」

 ……戦艦マラートが僚艦と共に大破炎上したという一報がジュガシヴィッリの耳目に届いたのは、それから間もなくのことであった。



 ドイツ第三帝国による38年攻勢は、異常なほど、極めて鮮やかに、速やかに成功した。一部の国防軍将校は罠ではないかと疑ったほどであり、実際に偶発的にとはいえ一部突出した武装親衛隊部隊がハメられたため、ますます警戒心に陥る者までいたほどだった。とはいえ、ドイツ第三帝国の38年攻勢、いわゆる「バルバロッサ」作戦は理想的なほどに成功した。一部の都市圏を要塞化して防衛ラインに充てるため、はなっから無防備都市宣言をしていた場所すらあったほどで、事実上モスクワ、スターリングラードは孤立したまま籠城することとなった。中でも目覚ましい活躍をしたのは実はドイツ国防軍ではなくスオミ国防軍であり、開戦一日目にはレニングラードを孤立させ、さらに重要なレンドリース港候補とされていた地域を三日目には無力化させていた。通称「スオミの国崩し」である。

 とはいえ、ソビエト連邦は急ぎシベリア超特急を駆使し極東ソ連軍を呼び戻すとともに、モスクワなど諸都市の死守命令を連発した。

 だが、現実は非情である。シベリア超特急を駆使して呼び戻した極東ソ連軍がウラル山脈の西へ到着するころには、モスクワは陥落し、スターリングラードもまたその数日後には陥落していた。さらに間の悪いことに、なんと極東ソ連軍は新しい党首を担ぎ上げており、スターリンはその一報を聞いたときに絶望のあまり憤死したという。

 そして、38年攻勢は秋になるころには終結、ひとまずはソ連赤軍を大勢ドイツ国内に拉致して調印式に参加させ、その後速やかに街灯上につるし上げられたという。1938年10月のことであった。

 一方で、支那に上陸した合衆国軍は、予想以上の苦戦を強いられることとなる。運よく青島などの橋頭保こそ構築しえたものの、何せ支那から合衆国までは太平洋が立ちふさがっているし、いくらフィリピンなどの現地守備隊を動員したとしても、せいぜい犠牲になる大尉の数が数百人から千人弱になる程度のものであるし、第一ドイツ国防軍の38年攻勢がなぜあそこまでうまくいって合衆国軍の支那上陸作戦が失敗し続けているかというと、距離だけではなく作戦に要求するだけの水準がかなり異なることが存在していた……。

 とはいえ、合衆国軍の死骸が積み重なる程度であればさしたる事件ではない。せいぜいどの白人種が天下を取ってかじ取りを行うかの国籍が変わる程度であり、ぶっちゃけ当事者以外にはそこまで悲嘆にくれたり欣喜雀躍したりするものではない。所詮白人種の頭の国籍が変わる程度に過ぎないことを彼らはいい加減倦んだ目で見ていた。

 ……大日本帝国が大東亜共栄圏を成し遂げるまで、まだまだ時間は必要といえた……。




 くびなし美少女三姉妹とどいっちぇらんどクローンズが関東軍の居候となってから、早いもので少なく見積もっても半年、見積もり方によっては一年弱は経過した頃のことである。西の方では38年攻勢が行われている最中、彼女たちは相変わらず平和に過ごしていた。当たり前だが、帝国軍はそもそも北支以北を治めている関係上、合衆国軍が跳梁跋扈している、所謂「中原」や「華南」と称する北支より南とは違い、極めて治安と規律が高いレベルで維持されている地域で暮らしているわけで、流民があふれかえっていること以外は特に何もない地域であった。

 中華民国を自称し、周囲からは震旦共和国と称される国民党、所謂南部政権は広大な、本当に広大な地域を差配する割には貧乏であり、北清、所謂北部政権が領土の割に富豪であるのはこのあたりに秘密があるというのが定説である。

 特に、水資源の宝庫であるチベットや、砂漠・ステップ地域の中では随一の豊富な資源を持つジュンガルを窃取できなかった震旦地域の政権は非常にもろいものであった。それでもまだ、王朝国家である北清は象徴にして国家元首である愛新覚羅溥儀ことかつての宣統帝にして現在は康徳帝と呼ばれる北清重祚帝がいたからこそまだまとまりを持っていたのだが、南部政権の、つまりは国民党は蒋介石が国共合作などの延命工作を行うも汪兆銘とは役者が違ったのか、師孫文とは似ても似つかぬほどの醜態をさらす羽目になった……。


さて、お待ちどう。シリアスはここまでだ!


「……なあ、「大佐殿」」

「おお、どうした「ご客人」」

「……眼前の光景、どう思う?」

「……雑技団でもここまでの演技はできまいな」

「……それは、確かに」


 「眼前の光景」、つまりは「大佐殿」など関東軍や支那派遣軍の将校と「ご客人」ことクローンズが見ていた光景は……。

「姉様、ウケてるウケてる!」

「そんなことより、バランス崩さないでよ?」

「大丈夫、まだ酔ってないから!」

 ……燃焼系アミノ式・結婚式編のように二人が支えて人間トランポリンをしつつ長女がそこを飛び跳ね、さらに飛び跳ねている長女が三人の生首をお手玉にして、つまりは人間トランポリンの土台役である次女三女、そしてもちろん長女も首がない状態で、飛び跳ねながら生首お手玉をしているという曲芸をしている、といったものであった。

 おや? 首だけでも飛べるんだからお手玉なんて八百長か? と思う方もいらっしゃるかもしれないが、彼女たち曰く、「飛ぶのって結構霊力|(法力、妖力二通りの言い方があるが、中立的観点()の問題もあるので「霊力」と記述させていただく())使うのよ?常時展開していたら面倒くさいって!」とあるとおり、今の生首は浮遊効果を得ていない、純然たる生首|(ただし生命反応のある)であった。

「さて、そろそろキメるわよ!」

「「はいな!」」


「おお……」

「見事なもんですな」

「へへーん、これでもこういうので路銀稼いで来たんだから!」

「確かに、これでは路銀も稼げましょうな」

「それはそうと、何かおかしなことになってるみたいよ?」

「……と、いうと?」

「なんでも、香港に妙なビルヂングが出現したとか」

「……はぁ?」

「合衆国軍の野戦要塞ではないのか?」

「それが妙で、出てきたのは支那人で、さらには黒人もいたらしいのよ」

「……なんだと?」

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