第2話

「落ち着いたら街の診療所に行こう」

「ちょっと待ってて」

辺りを警戒しながら、草むらにしゃがみ込む。

薬草を1本採って、女の子の側に落ちている4本の薬草と合わせて、

「はい。これでクエスト達成だね」


「でも…」

「いいから、いいから」

「あなたの分は?」

「んー、いらない」「それより診療所で診てもらおうよ」


「でも…」

「じゃ、もうちょっと待ってて」

少し離れた草むらまで走って行き、薬草を採取。


「僕は薬草採取に関しては達人クラスなんだ」

新たな5本の薬草を見せる。


「薬草採取はね、薬草の周囲に生えやすい雑草を覚えると楽だよ」「君もよくこの場所に目をつけたね」

「何となく立ち寄ってみただけ」


「ワタシはミロって言います」

「ミロさんかぁ、ビーナスだね」

ミロは顔を真っ赤にした。

ん?勘違いされてしまったか?厄介な過去の記憶がまた出てしまった。


「僕はシンヤ」

「シンヤさん…」


「じゃ、診療所に行こうか」

「えっ、あの、無理です。…お金ないので」

「大丈夫、大丈夫。ツケが利くところあるから」

「えっ、でも…」

「冒険者は体が資本。病気になったらそれこそお金が稼げないよ」

「……はい」


街に戻り、地図を頼りに目的の診療所に到着した。

「こんにちは〜」

「……」

「こんにぃ…」

「おう、入れ」


診療所の奥から髭もじゃの大男がやってきた。

「ちは。ご無沙汰してます。シンヤです」

「シンヤか。よく来た。久しぶりだな」


「いきなりお客さん、連れて来ましたよ」

「お?嫁さんか?」

「ははは、違いますよ。さっき知り合ったばかりです」

ミロはもじもじしている。


「クマのゴドゥ先生だよ。でも食べられないから安心して」

「先生、申し訳ないけど今日はツケでお願い」

ゴドゥ先生は僕の頭に軽く拳を振り下ろし、

「クロスから手紙を貰ってる」「どうした?怪我か?」

「ウルフに襲われてて」

「こっちに来て見せてみな」


ミロは本当にいいの?とばかりに目配せを送ってくる。

僕はこれでもかってくらいの笑顔で大きく頷く。

「嬢ちゃんはネコ種かい?イヌ種かい?」

さすが、ドクターゴドゥ。僕が聞きにくかったことをあっさり聞いてしまう。グッジョブ。

「ハーフです。父がヒト属イヌ種、母がヒト属ネコ種なんです」


ヒト科ヒト属同士であれば種が違っても、交配は可能だと教わっている。

ヒト科イヌ属とヒト科ヒト属では無理。

ただ、分類法もかなりいい加減で、見た目だけでは区別しにくい。

後から分類が間違いでしたと修正されることもある。

子供はできないと交尾すると、出来ちゃいました、も起きる。

この州は亜人系が多いので学校では必ず教わる。


尻尾はもふもふのイヌっぽいのに、顔はネコっぽかったのはそのためか。耳は尖った三角耳で区別はつかなかった。


「ちゃんと応急処置が出来ているじゃないか。シンヤがやったのか?」

「うん。子供の頃、先生の教えをちゃんと聞いてたからね」

「合格点をやろう。一応、化膿止めを塗っておく」


「ミロさん、この先生は僕の父の冒険者仲間だったんだ。一見、真っ先に魔物を殴り倒しに行きそうだけど、、、治癒師なんだよ(笑)」

ミロは目を丸くしていた。


「こいつの親父がパーティ仲間を孕ませてパーティ解散になったんだ。嬢ちゃんも気をつけな」「そん時生まれたガキがこいつな」

ガハハと笑うゴドゥ先生、顔を赤らめて下を向くミロ。


包帯を巻き終わって「良し」と言い「もし傷が疼いた時の鎮痛薬を出しておく」

そう言って奥の部屋に入っていく。


ミロは本当に良いの、とばかりにこっちを向く。

僕は大きく頷き、

「ゴドゥ先生、出世払いでお願いします」

「んー、いらねーよ。親父さんから、息子がそっちいくからよろしくという手紙と大量の芋が送られてきた。それでチャラだ」


「今度来るときにはしっかり稼げるようになってます」

頭を下げた。

「次に来る時は嫁さんの御懐妊だ」

ガハハと笑って、「おう、そう言えば今日晩飯食いに来い。うちの嫁も息子が州都の魔法学校に連れて行かれたので寂しがってる」「嬢ちゃんも一緒に来な」


「あー、ところでシンヤ、おめーいつから俺の名前覚えたんだ?」

「昔から知ってましたよ」

「おめー、いつもクマ先生だったじゃねーか」

「そうでしたっけ?親父にここの地図描いてもらって『ゴドゥ診療所』だと聞いた時から知ってます」

「つい最近じゃねーか!!」

「あはは。また夕方に来ますね。クマ先生」

「おう」

ミロが初めてクスッと笑った。


診療所を後にして、冒険者ギルドに薬草を向かった。

一般的な薬草はもともと買取価格は安い。冒険者ギルドは新人冒険者育成のため赤字覚悟の買取額で買ってくれる。

その影響で1人1日5本という制約があるのだろう。

冒険者ギルドに5本納品する額を得るには、僕の町だと15本は集めなくてはならない。


夕食までの時間、近所を散策しながらミロと話した。

ミロもこの街に来たばかりでキャンプ場生活をしているらしい。


再び診療所を訪ねると、

「あなたがミロちゃんね!カワイイィィぃ!」

カリナさんがミロを出会い頭に抱きしめる。ミロはけっして小柄ではないが、ミロの頭がカリナさんの胸に埋まる。カリナさんは女性にしては身長高めなのだ。そのカリナさんがクマ先生の横では華奢に見える。

「うちの娘にならないー?」


ミロは直立不動のまま、されるがままになっている。

クマ先生が引き剥がしてくれても、ミロは呆然としていた。

「大丈夫だった?」と尋ねると、

「こんな風に強く抱きしめられたの、いつ以来だろうって考えてた」

なんか重い話だろうか?

「とても懐かしい感じでした」

それは良かった。


ダイニングに案内されると、すでにテーブルの上に料理が並べられていた。

「うわー、全部美味しそうー」

ミロは目を輝かせている。耳はピクピク、尻尾も左右に揺れている。きっと本心からそう思っているのだろう。こういう時に本心が行動に出る人は得だと思った。

カリナさんもにっこにこだ。

僕が言うと、お世辞くさく聞こえてしまうだろう。


食事をしながらクマ先生たちの冒険者時代の話で盛り上がった。冒険中の食事担当はもっばらカリナさんだったらしい。

男連中の料理は大雑把で、逆にうちの母さんは細かいところにこだわり過ぎてなかなか完成しなかったらしい。


話がどんどん進むうち、

「せっかく冒険が順調にいってる時に、クロスのヤロー、セリカを孕ませやがってぇぇ」

カリナさんは酒乱だった。

父はそうとう根に持たれているらしい。(苦笑)


話が変わり、

「ミロちゃん、生活で何か困ってることない?」

カリナさんがやさしく聞いた。

ミロは照れくさそうに、

「ランプを持ってくるのを忘れて、夜目は利くんですけど、テントの中はちょっと不便かなぁって」

と答える。

「使ってないのを持って来よう」と立ち上がるクマ先生をカリナさんは制して、

「そんなの、シンヤのテントに行けばいいじゃない」「だいたい、あんな野獣が集まるキャンプ場でうら若き乙女を1人にして平気なわけ?シンヤ?」と酔った目で睨まれる。


「ぼ、僕だって野獣かもしれないじゃないか?」

焦る。

「違う。シンヤは野ネズミだ。ミロちゃんに襲われる心配をした方がいい」

ミロはフいた。


診療所をおいとまするまで、再三カリナさんに念押しされ、ミロはいま僕のテントにいる。


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