食米禁止令

りんりん

一話完結

ある日、世界は突然決めた。

「米は健康に悪い。炊飯の匂いも不快。これ以上食べてはならない」と。


大学の入学式では、新入生に誓約書が配られる。

「入学後も米を食べません。違反が発覚した場合、退学となっても異議申し立てはいたしません」

署名を拒んだ学生はその場で入学取り消しになった。


会社の健診では必ずこう聞かれる。

「あなたは食米の習慣がありますか? 禁米の意思はありますか?」

記入欄に「はい」と書いた瞬間、人事評価が下がり、禁米セラピーを受けさせられる。


一部の企業はさらに進んだ。

「社員の健康意識を高めるため、業務時間外の食米も禁止します」

社員の自宅にまで調査員が訪れ、炊飯器の封印が義務づけられた。

出世するのはパン派ばかりだ。

米習慣があるだけで「自己管理ができない人間」の烙印を押される。


街角には「食米所」が設けられた。

昼休み、弁当を広げるサラリーマンたちが肩を寄せ合い、周囲の軽蔑を気にしながら急いで白飯をかき込む。

そこに向けられる視線は、かつての喫煙所とまったく同じものだった。


メディアは言う。

「炊飯の蒸気にも有害物質が含まれます。副炊煙にご注意を」

「家庭内での炊飯は子どもの健康を脅かす危険行為です」

政府は言う。

「健康のために規制を強化します」

そして同じ口で言う。

「米税の収入は社会保障に使われています」


喫煙者の気持ちがわかったか。

ざまあみろ。

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食米禁止令 りんりん @lynnlynn

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