第5話 星のこども1

 おぎゃあとは泣いてはいないが、おぎゃあと泣いてから親である星の背中に揺られ続けていた。赤ちゃんから、よちよち歩きになり、親の会話から言葉を学び、大きくなっても。岩や土しかない親の背中は私にとってはとても頼もしく、安心する場所だ。

 私と親は星から星へ、宇宙から宇宙へめぐっていた。

 私が巣立つところが見つかるまで。

 何百年経っただろう。私はもう昔のうちに独り立ちをするのを嫌だと思っていた。親曰くそれはそれでいいのだそうだ。他の星の子供も必ずしも独り立ちしているわけじゃないらしい。

 また星の近くに止まっては眺める。この星では知的生命体が実験をしている。他に何がいるかと聞かれれば、その知的生命体よりはるかに大きい動物がいるくらいだ。ここも惹かれなくて、別の星を見る。

 ほぼ水で覆われたそこには全く別の生態系をしていた。色が少ない星と、あらゆる色をしている星。生き物も全く違う。知的生命体のいる星は大きく、毒もあるのかとても凶暴な動物が多い。たいして動物しかいない星は、どこの大陸でも平和に暮らしている。弱肉強食はあるものの、共存関係でもある不思議なところだ。

 何年か眺めてから、特に惹かれることもなく移動する。

 もちろん私は親の背中に捕まって、親が彗星のように動く。とくに気になる星もなく過ぎていく。

 途中で30歳くらいの星の子供と親とすれ違った。

「こんにちは」

「おはよう」

 と親同士は挨拶する。移動するので互いに時間は違い、挨拶が同じだった時はない。親同士の会話は長いので、私たち子供といえば、子供同士遊んでいた。

 向こうの親の背中に飛び乗る。気体で出来た体は私をさわさわと包み込む。このままでは中心部分まで行ってしまうので羽を出して、相手の子供の所まで向かった。

「こんにちは」

 と声をかけると「おはよう」と返ってきた。

「いいところあった?」

「ううん。そっちは?」

「特に。あ、でも、知的生命体が実験を頑張ってるところはあった」

「へえ。こっちは新しく星が生まれたところがあった。今なら色々と見れるんじゃない?他の知的生命体も観察に来てたし」

「そうなんだ、ばれたの?」

「無理だよ、誰も僕たちの事、見れないから」

 など淡々と、機械の報告のように会話が進む。星に住む生き物からしたら驚くだろうが、むしろ余計な話し方を付ける方が不便な気がする。話したい事を真っすぐに伝えられなくなる。

 とは言っても、親は長く生きているので、そうとは限らないが。たしか前に、むしろこっちのほうが楽しいと言ってやっている星や子供がいた。

 知らない親と何を話すことがあるのだろうか。何時間も親は話し込んでいる。私たちといえば、飽きてもう自分の親の背中で寝ていた。

 こういう時、他の星で遊べれたらいいのだが、他の星もそこに住む生き物も生きているから、遊んではいけないという決まりがある。ただぼーっと時間だけを過ごすのは退屈なものだ。

 やっと親は別れて動き始めた。

 すぐには起きれずしばらくうとうとし続け、1年後に起きた。そのころには生まれたばかりだと教えられた星についていた。


 その星は前に見た、動物しかいない星のように色んな色の植物が生えていた。動物の大きさは大小さまざまだ。毒を持つものもいれば火を生産するものもいる。凶暴さもさまざまで、かといって無意味に破壊していくわけではない。なんとも面白い星だった。

 ただ眺めるには周りが少しうるさかった。観光に来るのはいいが、乗り物から他の乗り物、もしくは母星への通信の音が脳に響く。

 その知的生命体は何をしに観光に来たんだと思い、通信を聞いてみれば、どうやらこの星にも知的生命体がいるようだった。

 親が星にあわせて動く。

 見ている星が夕方になってからだった。山の中からぞろぞろと知的生命体らしきものが出てきた。その生命体は自分よりはるかに大きな植物を育てては、育った植物を切って山の中に運んでいる。山と似て体が大きいのに、どうやってあれだけの生命体たちは山の中に入れるのだろうか。初めて見る光景なので私にも分からなかった。

 数年経った頃か。順調に生命体の数は増えていた。

 そんな中で突然だった。最初は海から突然、生命体とは違う姿のものが現れた。皮膚は薄い水色で、光に当たれば血管が透き通って見える。指は六本あり、関節も多く、手足や首は長い。体の大きさは元から住んでいる生命体より圧倒的に小さかった。

 どうやら動物、というわけではないらしい。海から出てきてすぐに複雑な言葉を発して気持ちを通わせていた。さすがに生命体に気づかれて、敵と勘違いして攻撃されたが、まるで自ら自然を生産する動物のように、どこからともなく波を作り生命体を溺れさせた。

 元いた生命体たちとの会話はそこから始まった。私はその会話より、それで枯れていく植物に胸を痛めた。

「ねえ、どうして星が泣いているのにやめないのかな」

 今までの生命体同士の縄張りの戦いでもそうだった。他の集落の生命体と会うたびに怒鳴り合って、すぐに戦いが始まっていた。

「それが知りたいなら行ってみたらいい。私はここで待っているから」

「……」

 それは初めての言葉だった。沈黙。はい、も、いいえ、も答える事はできず、何も話さないという私の気持ちを表したのだ。今まで機械のようにしか話さなかったのに。それに戸惑いながらも、好奇心から黙ったまま羽を出して、新しい生命体にひれ伏している元の生命体のいる星に向かった。

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