焼ける女
斉田颯太
焼ける女
(再生開始)
あ、これもう始まってます?
―ええ、ご自身のペースで話してください。
はい。……先月体験した話なんですけど。
その日は仕事が忙しくて、2時間くらい残業してから帰りました。次の日も出勤日だったんですが、すっかり疲れ切っていたので、ダルいな~とすら思わず機械的に帰ったのを覚えています。家に着いて、軽くシャワーとコンビニ飯を済ませたらベッドに入りました。
その夜中に、ふと目が覚めたんです。たぶん3時くらいだったでしょうか。無駄に起きちゃったのでイライラしましたが、疲れすぎて眠れないってことかな、とか思って、いっそコンビニにでも行こうかと体を起こそうとしました。
体が動かなかったんです。まあ、金縛りですよね。今考えると「ほんとにあるんだ」って感じですけど、その時は若干パニックでしたね。動かない、どうしよう、これっていつまで続くんだ、明日仕事行けるかな……みたいなことを考えていると、視界の端に違和感を覚えました。
何か、いるんです。六畳一間のアパートに同居人なんかいないし、強盗にしては静かすぎる。なんとか目だけを動かして、それを見ました。
女がいたんです。ぼろ雑巾みたいな服に、振り乱した髪。手にはチャクラムが握られていて、血走った目は、僕を見つめていました。それから……
―失礼ですが、今なんとおっしゃいました?ちゃく……?
え?ああ、チャクラムです。武器の。
―チャクラム?それってどういった形なんですか?
なんというか、丸い武器なんですけど、外側が刃物になっているというか。
―丸くて外側が刃物……?あの、マリオの敵キャラが投げてくるやつですか?
マリオの敵キャラ……?
―あれ、なんかいませんでしたっけ?雲みたいなのに乗って、丸いトゲトゲ投げてくるやつ。
ああ!あれはジュゲムですね。チャクラムとは違います。
―ジュゲム、ですか。落語とトゲトゲがどういう関係なんでしょうか。
あれ、あー、あの、あれはジュゲムじゃないです。丸いトゲトゲはパイポって言います。投げる方、あの、ゴーグル着けてる方がジュゲムです。
―パイポ。やっぱり『寿限無』由来なんですね。
そうです。確か、シューリンガンってのもありましたよ。
―『寿限無』の要素が多いですね。
そうですね、日本文化への造詣が深いというか、やっぱり花札作ってた会社だけありますね。
―はは。……なんの話でしたっけ?
あ、すみません。チャクラムの話でしたね。えーと、簡単に言うとチャクラムは球状じゃなくて、円状の刃物です。
―円の外側に刃が付いている武器、ってことですか。
そうです。確か、インドで使われていた武器だったと思いますよ。投げて戦うんです。
―手裏剣みたいですね。
あー、確かにそうですね。持ちにくそうな気はしますが。
―ところで、暗闇でよくそれがチャクラムだと分かりましたね。
ああ、光ってたんですぐわかりました。
―月光で、みたいなことですか?
いえ、チャクラム自体が。黄金色に光ってましたよ。
―ええ……、聖属性みたいな光り方ですね。
あ、だからか!
―何がでしょう?
あぁ、すみません。その女、自分が持ってたチャクラムの光で焼かれてましたから。
―じゃあ聖属性じゃないですか。
そうですね。明らかに清めの光っぽかったです。
―自滅じゃないですか。
あ、でもその女、地縛霊なのか、ウチに出るようになっちゃって。
―ほう。……詳しくお聞きしてもいいですか。
その日から毎晩、3時頃に目が覚めては女が焼け死ぬところを見てるんです。
―リスキルじゃないですか。
はい。もう詰みセーブだと思います。
―気の毒というか、なんというか。
はは。……ってのが、僕が体験した話ですね。はい。
(再生終了)
焼ける女 斉田颯太 @Gorochi
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