㉒ゲーミングデバイスを買いに行こうの回

『ンまもなく秋葉原ぁ~秋葉原ぁ~』


 気怠そうな車掌のアナウンスが山手線の車内に響く。


「ほら、もう降りるよ。ライカ。」

「えっ、もう!? 待って、ぼくまだ靴履いてないよぉっ…!」


 平日お昼の車内に乗客はまばらで、ライカは座席に膝立ちになって外の町並みを夢中で眺めていた。おっきな幼稚園児さんかな??? ちなみに今日のライカのコーデはだぼっとした大きめサイズのパーカーに、ホットパンツの組み合わせ。そう、正面から見るとパーカーしか着てないように見えるアレ。ぷにぷにの太ももとちょっと角張った膝のラインのギャップがたまんないなぁ、んもう! もうライカがうちに着てから衣装代がかさんで仕方ないよねフッフーゥ。

 それはさておき、なんで秋葉原に来ているかというと…。


「ねぇ、チハル。ぼくもあのゲームやってみたい!」


 昨夜のこと。銃堂レトの配信アーカイブを見ていたライカは、無邪気にそう言った。配信画面に流れていたのは、世界中で広くプレイされているバトロワ形式のFPSだった。そう、あの3人で部隊を組んで戦場に降り立ち、最後の1部隊になるまで56し合うやつ。


「お、Apexだね。」

「うんっ。この前のコラボのあと、レトが"今度よかったら一緒にやってみない?"って誘ってくれたんだー。」

「ふむ、いいじゃないか。コラボ向きの定番タイトルでもあるからね。」


 もちろん二つ返事で私も賛成。難易度はどちらかというと難しい部類ではあるけれど、"一度でも遊んだことがある"というだけですごくメリットがあるんだよね。というのも、この手のゲームはコラボ用のツールとしても非常に優秀なんだ。


 マルチプレイのゲームなら必然的に「三人組パーティフルパ組んでコラボしよう!」みたいな流れにもなりやすいし、参加型配信にすれば視聴者とのコミュニケーションもすることができる。交流用の配信者サーバーもあったりするし、友人関係も自然と広がっていったりもするってわけ。


 ちなみにゲームをこういう「コラボ用のツール扱い」することには賛否あるけれど、私は大賛成のスタンス。最初のきっかけはどうあれ、結果的にゲームを楽しんでいるわけだしね。


 というわけで、ライカを連れて早速FPS向けのマウスやキーボード、ゲームパッドなんかを見に来たってわけ。VTuber活動をするうえで遅かれ早かれ必要にはなるし、だったら善は急げ。未来への投資ってやつだよね。

 Amazonとかの方が楽なのにって? いやいや、やっぱりこういう毎日使うものは、実際にお店で手にとって合うものを探さないと。


 そうこうしながら、私たちは大通りに面したところにあるゲーミングデバイスの専門店に到着した。こぢんまりとした店内には、壁の隙間を埋め尽くすようにところせまし最新のゲーミングデバイスが陳列されており、その様相はさながら秘密基地といった雰囲気を醸し出している。


「こ、ここは……? もしかして、武器屋さん?」

「ゲーミングデバイスのお店に行く、って出る前にも言ったでしょ? って、ある意味では配信者の"武器"とも言えるかな。ふふ。」


 ライカもこちらの世界にはだいぶ慣れてきたとはいえ、これだけ人で賑わう街中を歩いたり、あふれるほどの情報量を眼の前にするのは初めての経験。背中を丸めておっかなびっくり、といった様子で店内をきょきょろと見回している。

 そしてその指先は……私のコートの裾をきゅっと掴んでいた。なんだこの可愛い生き物。


 この正統派すぎる小動物系ヒロイン(ただし♂)の王道を行くようなムーブを、秋葉原の住人たちが放っておくはずもなく。そこかしこから視線を感じたり、(い、今の萌えっ子、見たでござるか!?)とか(うはwwテラカワユスwww)とか(ネ申降臨)とかいった声がすれ違う人たちから、お店にたどり着くまでの間にもたびたび聞こえてきた。おそらくライカには伝わってないだろうし、なぜかやたらと平成インターネッツっぽかった気がするけど。


 そして、店内中央の最も目立つスペースに展示されているのが、妖しく虹色に輝くゲーミングデスク。そう、試遊用のPCだ。見本のマウスやキーボードが接続されていて、お客さんは自由に使ってその感触を試すことができるようになっている。


「さあさあ、早速お試しあれ。ライカ。」


 立派なゲーミングチェアを引いて、ライカに着席を促す。さながら執事にでもなった気分だ。


「わわっ、なんかいろいろ光ってる!? こ、これすっごいレアな魔法のアイテムだったりしない?」

「これも電気の力だよ。まあまあレアではあるし、"強くなった気分になる魔法"はかかるかもしれないけど。」


 ゲーミング◯◯ほにゃららが虹色に光るって最初に考えたのは誰なんだろうね、素朴な疑問。輝くゲームパッドをおそるおそる手にとり、ライカは早速プレイを開始する。起動しているゲームは、ちょうどApexの1人用トレーニングモードだった。


「まずは歩いてみようか。移動はそのスティックでできるから、動かしてみて。」

「よ、よーし。行くぞぉー!」


 とて、とて、とて。


「わあっ! 歩いた! 歩いたよ、チハル!」


 画面のなかの筋骨隆々な兵士が、たどたどしく歩き出す。それだけで、ライカはぱぁっと花が咲いたような笑顔になる。


「いいね、そしたら今度は武器を拾ってみよっか。武器の前でボタンを押してみて。」

「う、うんっ。あれ、あれ?」


 シュッ、シュシュッと、画面のなかの兵士がパンチを繰り出す。2度、3度と繰り返

し。


「じゃなくてほら、こっちこっち。」

「んしょ、あ、できたっ! このおじさん、ぼくの言うとおりに動いてくれてる……!」

「はは、そりゃライカが操作してるんだからね。でも、うん。すっごく飲み込みが早いと思うよ。さすがだね。」

「えへへ。ねえ、これ撃ってみてもいい?」

「もちろん、好きなだけ遊んでごらんよ。そのために来たんだから。」

「わぁーいっ!」


 ライカは慣れない手つきながらも、夢中でステージを歩き回ったり、銃を撃ったり、アイテムを拾ったりしながら、徐々に操作方法が分かってきたようだ。


「こっちのボタンは……? わ、なんかバリアが出た!?」

「それはスキルってやつだね。まあ魔法みたいなものだと思っていいよ。」

「わぁ、かっこいー!」


 ライカの透き通るような、そして純粋にゲームを楽しんでいる可愛い声が店内に広がっていく。

 ふと周囲を見回すと、通路を歩いていた大学生らしき男性が、ちらりとこちらを見ている。棚の向こうでマウスを見ていた女性が、ライカへと視線を向けている。

 ライカを中心に、まるで小さな輪ができているような感じだ。

 ……この子は、なんて。本当に、自然に人を惹きつけるんだろう。

 "初見配信"どころじゃない。ライカにとっては、この世界で触れる全てが"人生初体験"なんだ。むき出しの感情が、リアクションの一つ一つが人々の心を動かしているんだ。


「このゲームっていうの、すっごい面白いね、千晴! ぼく、もっとやってみたい! いろんなことしてみたい!」

「お気に召したのなら何よりだね。あ、でも……。」

「でも?」


 初見プレイの反応は、配信に取っておくのもありだったかな。私は苦笑いしながら、コントローラーをレジへと運んだ。

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