㉑レトとありかの初コラボ終了後
「あらためて、初コラボお疲れさま。ライカ。」
ライカの初めてのコラボ配信は無事に終了。ライカと私は紅茶を飲みながらほっと一息ついていた。
「お、終わったぁ……。楽しかったーー……!!」
余韻に浸るように、大きく息を吐いたのはライカだった。私はうんうんと頷く。後方腕組みなんとやらの心境だ。
「配信もいい感じに盛り上がっていたね。よく喋れていたじゃないか。」
「ほ、ほんと……?」
「ああ、素晴らしいコラボだったとも。コメント欄も『天然』だとか『かわいい』だとかで大盛り上がりだったしね。」
「えへへ、なら良かったぁ。ん……おいし……。」
ライカはにへっと笑うと、マグカップに口をつけ……ん、いま、なにか言いかけた? どれどれ、ちょっとかまをかけてみようか。
「おや、なにか言いたいことがありそうだね?」
「はぇ!? 千晴、なんで分かったの?! 魔法?! スキル!?」
どうやら図星だったらしい。年上らしく余裕の表情を浮かべながら、言葉の続きを促してみる。
「そりゃライカのことなら何でも分かるさ。なんたって推しなんだから。聞かせてもらっても?」
「う、うん……。」
ライカは両手でマグカップを包むように持つと、ぽつぽつと言葉を紡ぎ始める。
「ねえ、千晴。ぼく、こんな風に誰かと人前でいっぱい話すのって初めてだったから、その……変なこととか言ってたりしなかったかなって、実は今日、ちょっと不安で。終わったはずの会話のことが、ずっと頭のなかでぐるぐるしてて。こんなの初めてで、だから……。」
そこでライカは一つ、意を決したように息継ぎをする。
「なんでもいいから、言ってほしいの。今日のコラボで変なとことか悪いとことかあったら、ぼく直したいからっ…!」
……成る程。今日のコラボの天窓ありかは確かに可愛らしく、言葉も普段以上に丁寧だった。けれど同時に、ソロ配信のときよりもどこか遠慮がちに見えていた。―その理由がやっと分かった。
初めてできた友達に嫌われたくないと、ライカなりに必死に、本気で考えていたんだ。私は少し黙考して、それから口を開いた。
「ライカ、そんなに気を遣いすぎることはないんだよ。―って、そういうまじめなところも可愛くって魅力的なんだけども……。コラボ配信に呼んでくれてる時点で"信頼してますよ"ってことなんだからね。強いていえば、もうちょっと"雑"に行くくらいでもいいんじゃないか?」
「ざ、雑…?」
「そう、雑。たとえばさ、レトに"ありかっちのスパチャで焼肉食べに行こう!"とか言われても、別にイヤな気持ちにはならなかったでしょ? …あ、いや、なってたらごめんなんだけど。」
「なってない! なってないから、全然!」
「でしょ? これがいい意味で"雑"ってこと。」
今日のコラボでは、天窓ありかの会話は丁寧で"雑さ"など全く感じさせなかった。それだけに、レトの発言のキレが際立ち、ある意味で温度差を感じる雰囲気になっていたかもしれない。
「普通の会話は"言葉のキャッチボール"なんて言われるけれど、コラボの会話は"言葉のドッジボール"なんて呼ばれることがあるんだ。ちょっと強い球を投げてみたり、それにどうリアクションしようか考えたりするのって、楽しそうだろう?」
「ちょっと強い球、って?」
「あくまで例えばだけれど……異世界のことわざにレトが"初めて聞いた、どういう意味?"って聞いたとこで『え、こんなのも知らないの?! レトってもしかして国語ニガテな人?』くらいのテンションで行ってみるとかさ。」
「し、失礼じゃないかな、そんなの……?」
「そんなことで嫌いになるような仲なら、そもそも今日のコラボが成立してないって。もうちょっと信頼してみたっていいんじゃない? 友達のこと。」
「と、ともだち……。」
ライカは噛み締めるようにその4文字を繰り返す。
「そう、友達。」
「だ、だって…。嫌われたくなかったんだ、レトは初めてできた……その、と、友達だから。」
「うん、その気持ちはすごく大事だし、ぜったい忘れちゃいけない。でも、遠慮しすぎると逆に相手に距離を感じさせちゃうってこともあるからさ。まあ、要するに私が言いたいのは。」
んんっ、と咳払いを一つ。自分でもくさいことを言っている自覚はあるけれど、これはちゃんとライカに伝えてあげないと。
「ライカは自分が思ってるよりもずっと魅力的だし、みんなライカのことを気に入ってる、ってこと。ね? こんなに可愛い、私の推しなんだから。」
「そ、そんな可愛い可愛いって……。」
「無理に自信を持たなくてもいいんだ。完璧じゃなくてもいい。でもね、"好かれてるかもしれない"って思ってみるくらいは、してもいいと思う。」
「好かれてる、ぼくが……?」
「うん、今日のコラボだって、レトはライカと喋るのを楽しんでただろう?」
私は少しだけ身を乗り出す。
「だから、もうちょっとコラボ相手やコメント欄に甘えてもいいんだよ。失敗しちゃったり、変なこと言っちゃっても、ちゃんと受け止めてくれる人がいるって、信じてみよう?」
「……うん。」
ライカは照れを隠すように、両手で包んだままのマグカップを口へと運びながら、こくりと頷いた。
「それにさ。」
私は付け加える。
「遠慮してるライカより、ちょっと図々しいくらい自由なライカのほうが、私も見ていて楽しいからね?」
「ちょ、ちょっとー?!」
頬を赤く染めるライカを見て、私はまだあたたかい紅茶を口に運ぶ。優しくて甘い香りが口いっぱいに広がった。
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