桜が散る前に
りな
第1話 桜が散る前に
「せんせっ!見て、ここまで描けたんだよー」
「いいね」
先生の横顔をそっと見つめる。
鼻の形、長いまつ毛、優しい瞳
「ここは個性がでてるね…って聞いてる?」
「……聞いてるよ、もちろん」
「……聞いてないね?わかるよ」
時計の針が進む、終わりの時間。
「せんせい……来週も来る?」
「あーごめん、来週は忙しくて……」
「でも……ほらっ」
揺らす、シナモンロールのキーホルダー。
「誕生日だったよな?来週の水曜日」
「うん!かわいい……ありがとう」
「……じゃあ、次はいつ来るの?」
「ごめん、しばらく来れなくて、先生も休業」
「……」
キーホルダーのチェーンを握る。
言葉がでない。
「……なんで?」
「ん?仕事をさがしてるの、また春に来るから」
「教室の先生になればいいのに。……先生のこと忘れちゃうからね」
秋に思い出す、先生の声
冬に思い出す、先生の手
春に思い出す、先生の笑顔
嘘つき、嘘つき、嘘つき
習い事に向かう、通い慣れた桜並木。
風が吹くたび、落ちる花びら
歌うよ、歌う。先生に。
目を閉じる、思い出す、あの瞳。
「お待たせ、もう桜散っちゃうね」
桜が散る前に りな @rinasan
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