【Forth Story of the Babies:《我等、人類を守る盾となり》】

Episode 40 :【〝大天使様〟の御前】

「――ガブリエル様!

 ご報告したいことがあり、ただいま参上いたしました!」


 〈A.E.G.I.Sイージス〉の最上階――最高司令官室と呼ばれる部屋に、龍雅(りゅうが)は勢いよく足を踏み入れた。


 名ばかり豪華なこの部屋は、まるで旧時代の貴族の館を思わせる内装や調度品が特徴的。


 しかし、実際あるのは、天井に埋め込まれた巨大な映写モニターと、最低限の通信装置、それに誰も座らぬ椅子と机ばかりだ。


 そんな最高司令官室で、龍雅はきっちりとネクタイを締め直すと、モニターに向かって声を張り上げる。


 この部屋のモニターは、特殊構成員の声紋を認証し、即座に最高司令官へ通信を接続する……はずなのだが、なぜか反応はない。


(……? 反応がないな。

 もしかして、声が届いていないのか?)


 そう疑問に思った龍雅は、胸がはち切れんほどの息を吸い込み、次弾を発射する。


「ガブリエル!! シンドウ様!! 雨津星(あまつぼし)――」

『うるッッさいわねッ!!』


 轟音のように割り込んできた、加工混じりの声に、龍雅は思わず肩をすくめる。


『アナタの声は、いちいち耳障りなのよ!! そんなに大声出さなくても聞こえているわよ!! 少しは人の鼓膜に配慮しなさいッ!!』

「おっと、これは失礼!

 しかし貴女様(あなたさま)には、破れる鼓膜はないのでは?」


 挑発めいた冗談を返す龍雅。


 その群青色(ぐんじょういろ)の瞳の先に姿を現したのは、〈A.E.G.I.S〉の最高司令官である――ガブリエル・シンドウ。


 その姿は、夏神(なつみ)の〝|鎧(よろい)|野郎(やろう)〟という評価がピタリと当てはまる、人間味を一切感じさせない、冷徹で硬質な鎧に覆われたものだ。


 事実、ガブリエルには、肉体というものは存在しない。


 いわば今のガブリエルは、機械人形に頭脳と人格を埋め込んだ――人間の模倣体(もほうたい)にして、その進化形態と呼ぶべきものなのだ。


 しかし、ガブリエルを構成するのは、ただの鋼鉄の塊ではない。


 マリアナ海溝の最深部でしか採掘できない、希少な貴金属〝ヒヒイロカネ〟を贅沢に使ってコーティングされた、最高級かつ最硬度の鎧だ。


 彩色硝子(ステンドグラス)を彷彿とさせる、色鮮やかに煌々(こうこう)と輝く鎧は、見る者の瞳を射抜き、圧倒する。


 その神々しささえ感じる装甲(ボディ)は、ガブリエルが世界で指折りの権力者であることを、象徴しているのだ。


『そういう問題じゃないわよッ。というかね、アテクシは、アナタ達愚民ぐみんと比べて、感覚能力が優れ……ンいや、この話はもういいわ。

 それより何よ、こんな何ともいえない、微妙な時間に』

「はい! 実はですね……この度、我々〈A.E.G.I.S〉に、新たな特殊構成員が、加わることになったのです!」

『あらそ。それはめでたいわね』


 満面の笑みを浮かべる龍雅に対し、ガブリエルは、心底どうでもよさそうに片膝を付いている。


 顔こそ見えないが、そのため息交じりの声色は、退屈と不満で歪む表情を暗に仄(ほの)めかすものだった。


「まだまだ精神面に不安定なところはありますが、単騎かつ生身の状態で《ヒューマネスト》を撃破し、凛太郎(りんたろう)君の《特殊とくしゅ兵装へいそう》にダメージを与える功績も残しました。

 今はまだ、掘り出したばかりの原石ですが、磨けばダイヤモンド以上の輝きを魅せてくれることでしょう。私は、そう確信しています」


 龍雅が、今までの観察から得た、夏神が持ち得る素質の素晴らしさを、まるでプレゼンテーションを行うかのように語る。


 その声色や顔つきは、真剣そのもの。嘘八百やお世辞で言っているのではない、本心からの評価なのだと読み取れるものだ。


 しかしそれでも、ガブリエルの興味・関心を引き寄せることはできない。


 それどころか、鋼鉄製の籠手(こて)に覆われたようにゴツゴツとした、その手で頬杖を突いたまま、わざとらしいため息まで吐(つ)かれている始末だ。


『……それで? 結局のところ、アナタの要件は何なのよ』

「その少年……名を蓮元(はすもと)夏神(なつみ)君といいますが、彼はどうも死に急いでいるといいますか、自分の命を顧みない危険性を孕んでいるのです。

 ……私としては、彼にも《特殊兵装》の使用許可を与えてくだされば、その心配も無用になるのですが――」

『ハアッ!? 冗談キツいわよ!』


 ガブリエルが、モニター越しに身を乗り出し、激情混じりの声を荒げる。


『《特殊兵装》は、現代社会においてね、唯一あの怪物に対抗できる、人類の希望よ!? 

 子供用の携帯電話みたいな感覚で、どこの馬の骨とも分からない奴に、与えていい代物じゃないわ!』


 叩き付けるような声。その迫力に、室内の空気が震える。


 龍雅は思わず身構える。


 ガブリエルが、ここまで激情を露わにすることは、極めて珍しい事例だからだ。


 ガブリエルは何故、叫び、反論したのか。


 その根底にあるのは、「《特殊兵装》という兵器が、如何(いか)に恐ろしい存在であるか」という事実を、誰よりも知っているが故の、過剰反応。


 ガブリエルにとって、龍雅の提案など、了承できるはずもないものだったのだ。


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【次回予告】


《それは、世界各国でもほんの一握りの、選ばれた人間しか使用を許可されていない。》

《ガブリエルは、そんな破滅の未来が来ることを、恐れている。》

「彼が《特殊兵装》を装備すれば、まさに鬼に金棒。即戦力になれます。

――ですが、それだけではありません」


次回 Episode 41 :【それは、救世主か、はたまた悪魔か】


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