Episode 22 :【それでも少年は、歩み続ける】

 ――音葉おとはが突然、黒豹くろひょうの《ヒューマネスト》となり……そして俺との戦いの果てに、目の前で消えていった。


 その現実は、幼い子供達の心に深い傷を残すには、あまりに充分じゅうぶんすぎるものだった。


 キョウカも、マサルも、アラタも……涙が枯れ果てるまで、泣き続けた。


 そして泣きつかれた彼らは、そのまま静かに眠りに落ちた。


 俺は、3人を抱え、比較的被害の少ない廃ビルの一角に、身を潜める。


 ……正直言って、俺ももう、限界だった。


 戦闘のダメージだけじゃない。心も、身体も、すでに消耗し切っていた。


 だから、今はただ、目の前の子供達が目を覚まし、少しでも心を取り戻すまで……この場所で、しばしの安息を得ることに決めた。


 ――その時だった。


『探したぞ。随分ずいぶんと災難だったな。夏神なつみ


「……!? 先生!?」


 低く、けれど確かに響く声が、ビルの入り口から届いた。


 そこには、数体の〝フレンド〟がいた。


 その部隊の中央にいる一体には、胸部に液晶画面が埋め込まれており、そこには斎賀さいが先生の映像が映し出されていた。


『《ヒューマネスト》の出現反応があったので、念のためこうして増援を送ったわけだが……無事に対処できたようだな。

 流石のお前でも、連戦は厳しいと踏んでいたが……流石に過保護すぎたようだ』

「……無事に対処……俺は、そうは思えません……」


 口角を上げてそう言う斎賀先生。


 それとは対照的に、俺の言葉は、ひどく覇気のないものだった。


「結局、俺は……《ヒューマネスト》になった音葉を、救えなかった。

 この子達にも、深い心の傷を残してしまった。

 最悪の結末は阻止できたけど、とてもハッピーエンドだなんて、言えません……」

『それで充分じゅうぶんだろう。

 最悪の結末を阻止した、それの何が不満なのだ』


 斎賀先生は、いつも以上に厳格な口調の言葉を、さらに続ける。


『100点満点のハッピーエンドなど、絵空事にすぎん。

 不必要な高望みは、足枷あしかせにしかならない。

 それが、人の命が関与する事態であるならば、尚更なおさらな話だ』

「…………」

『もしもそれで納得できないのなら、お前は修羅しゅらの道を歩むには、まだ子供すぎる。

 それならばいっそ、普通の子供らしく、分相応に生きるのも、一つの道だ』


 斎賀先生の言葉が、俺の疲れ切った心に、深く重くかる。


 先生の言う通り、結局、根本的な部分の俺は、まだまだ子供なのだろう。


 だから、「それで充分だ」なんて、割り切れない。


 どうしたって、「もっと、できることがあったんじゃないか」……そう考えてしまう。


 ――だけど、その後悔こそが、今の俺を突き動かす、一番の原動力になる。


 母さんを失ったあの日から、俺は、そうして生きてきた。


 この後悔が、痛みが、「今度こそ、今度こそ」という、覚悟の激情に変わり……俺を前に進ませる力になるんだ。


「……それでも、俺は……前に進みます。

 もう同じ過ちは、繰り返したくない。

 自分の無力さも、罪も、全部背負って……その上で、また誰かを救えるように――戦い続けたいんです」


 液晶画面越しに、斎賀先生のワインレッドの瞳を見据える。


 そんな俺に対して、先生は、「やれやれ、やはりお前は、そういう奴だな」と、そう呟いた。


『その子供達のことは、約束通り、私が預かることにしよう。

 お前は、自分が為すべきことのため、このまま歩み続けるといい』

「……ありがとうございます。先生」

『夏神。いずれお前には、今以上に、大きな選択を迫られる時が来るだろう。

 その時には、どんな答えを出すのか……私は、楽しみにしているぞ』

「……? 先生、それはどういう――」


 ――プツン……。


 ディスプレイに表示されるものが、斎賀先生の顔から、反射された俺の顔に変わる。


 質問をし終わる前に、先生が、通話を終了してしまったのだ。


 ……先生は、いったい俺に、何を伝えたかったのだろう。


 いつもは、最低限の内容を、洗練された的確な言葉で伝える、斎賀先生。


 そんな先生が、持って回ったような言い方をしたのも、気になるが……。


 だけど、今はそれより、俺には進むべき場所がある。


 もう、迷ってはいられない。


 俺は、フレンド達に子供達を任せ、再び〈狭間はざま交信局こうしんきょく〉へと向かうことにしよう。



《――「ったく……アンタと出会っちまったなんて、今日は最高の厄日だぜ!」》



「……すまない、音葉」


 眠る子供達を見つめる静けさの中で、音葉への想いが、込み上げてくる。


 ――俺には、音葉の代わりに、この子達のことを守り続けるという、道もあった。


 だけど、それでも俺は……どうしても、前に進みたい。


『この地獄ような世界で、同じように苦しむ人たちを、一人でも多く救いたい』。


 それが、どんなに馬鹿げた夢だと、わらわれたとしても――。


 意を決した俺は、全てを振り切るかのように、走って外へと飛び出した。


 ――その時だった。


 雲の切れ間から差し込んだ光芒こうぼうが、俺を照らし出した。


 その光は、まるで――音葉が、俺の歩む道を、照らしてくれているかのようだった。


(……音葉、見ていてくれ。

 俺は、君の分まで……この地獄を、生きる。

 この世界で、俺は君のように……誰かを守れる、光になってみせる)


 こうして俺は、決意を新たに、再び歩き出した。


〈狭間交信局〉――俺の未来へと、繋がる場所へ。


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 後悔や未練が ないわけじゃない

 「幸せだった」と強がれるほど 強くはない


 でもね 私は たくさんの愛に包まれていた

 だから 今度は私が 虹の橋の向こうから

 そっと あなた達を照らす 光になる


猫宮ねこみや 音葉おとは


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《次章予告》


(――ここが、〈狭間交信局〉……か)

『――警告。警告。それ以上の接近は許可されていません』

「いいのか? 俺を追い返したら、お前達は貴重な逸材を、自ら手放すことになるぞ」


 次章――【Third Story of the Babies:《超常ちょうじょう異能いのう現象げんしょう防衛ぼうえい機関きかん・〈A.E.G.I.Sイージス〉》】

 次回――Episode 23 :【運命の地、〈狭間交信局〉】


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 第二章、無事完結!


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 それでは、また次の章にて、お会いしましょう!


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