【トゥエンティー・フィフティー・ベイビーズ】―2050.03.13:Dual Destiny,Damnation & Deliverance―
Episode 21 :【〝守れたもの〟と、〝守りたかったもの〟】
Episode 21 :【〝守れたもの〟と、〝守りたかったもの〟】
「――
「……! キョウカ……」
戦いを終えた俺の元に、子供達が駆け寄ってくる。
「よかった、無事で……!」
「ああ……ありがとう。
君のおかげで、俺も集中して戦うことができた」
「い、いえ、そんな……」
照れた様子のキョウカだったが、その視線はすぐに、隣のマサルへと映る。
その眼差しには、呆れた感情が入り混じっていた。
「でも、マサルは、いきなり飛び出して……もう、生きた心地しなかったですよ……」
「な、なんだよ! オレがああしてなきゃ、コイツやられてたじゃん!」
「……ああ、その通りだな。
俺が勝てたのは、君の勇気のおかげだ。ありがとう、マサル」
俺は自然と手を伸ばし、マサルの頭を
「な、なにすんだよっ」と言いながらも、嫌がっている様子はない。むしろ、どこか嬉しそうだ。
「でもさ、アラタだけ、ぜーんぜん見せ場なかったよな!
こいつ、いつもオドオドしてばっかだし!」
「ええっ、そ、そんなぁ……まあ、そのとおり、だけどさ……」
「そんなことはない。
アラタは、
それに、俺が君達と出会えたのだって、アラタのドローンカメラのおかげだ。
その年で、陰でみんなを支えるってことは、中々できることじゃない。立派な強さだよ」
「……そ、そう、かなぁ……それなら、いいけど……」
「あーっ! こいつ、照れてやんの!」
「こら、からかわないの!」
……ハッピーエンドだとは、決して言えない。
それでも、この子達を守ることができたのは、せめてもの救いだった。
もしも、この子達の身に、何かがあったとすれば……俺は、本当に、音葉に顔向けできなかったからな……。
「……あ、それで……ネコ姉は、どうなったの?」
「っ……!!」
――息が止まりそうになる。
どうすればいい。
『音葉は、
この子達に、そう話すのか?
俺ですら、未だ受け入れられない、受け入れたくない真実を……。
……だが、どんなに隠しても……音葉は、もう、いない。
だとすれば……この子達に、ちゃんと真実を伝えることこそ、俺が為すべき責任なんじゃないか?
「……みんな、落ち着いて、よく聞いてほしい。
俺から、話さなければいけないことがある」
そう言って、俺は言葉を選びながら、真実を語り始める。
彼らの愛するネコ姉が辿った、そのあまりにも惨たらしく、受け入れがたい真実を……。
「あの黒豹の《ヒューマネスト》……確証はないが、おそらく、その正体は――音葉だ。
きっと、音葉だけじゃなく、他の《ヒューマネスト》も……元々は人間だったのだろう。
……つまり、音葉は…‥俺が倒した。そういう、ことになる」
――重すぎる沈黙。
3人の表情は凍り付き、感情が抜け落ちる。
「…………な、なに、言ってるの……?」
「……信じたくない気持ちは、分かる。俺だって…‥まだ、混乱している。
だが、そう考えると、突然現れた《ヒューマネスト》の正体、姿を消した音葉……その全てが、繋がるんだ」
「……ネコ姉が……死んだ……?」
――ギュウッ。
マサルが、俺の服を握り締める。
その震える手から伝わってくるのは、行き場のない悲しみと……俺に対する、激しい怒り。
「……なんで……なんでっ、ネコ姉を殺したんだよ!!
お前、ネコ姉を助けてくれるんじゃなかったのかよ!!
なのに、なんで……!! なんで殺したんだよ!!」
「……すまない。
君達を、守るには……それしか、方法がなかった……」
「そんなの知るかよっ!!
お前のせいで、ネコ姉は死んだんだ!!
お前が、お前がっ……!! お前がいなかったら、ネコ姉は――」
「っ……!! マサルっ!!」
――バシィッ……!!
乾いた音が、戦場跡に響き渡る。
マサルの頬を、キョウカが叩いたのだ。
「いってぇ……! なにすんだよ!!」
「分からないの!?
夏神さんがいなかったら、わたしたち、殺されてたんだよ!?
夏神さんが、戦ってくれたから、生きてるんだよ!?」
「そ、そんなの、わかんないだろ!
こいつがいなくたって、オレたちだけで……」
「何言ってるの!!
ネコ姉がいないと、なんにもできないくせに!!」
キョウカの目から、一粒、また一粒と、涙が零れ落ちる。
それにつられるように、マサルの目にも、涙が浮かぶ。
「っ……! で、でも!」
「……断定はできないが、音葉は、今日、《ヒューマネスト》になる運命だった。
音葉のあの咳は、やはり、ただの
だからと言って、早く病院に行っていたとしても、音葉が《ヒューマネスト》に変わるのを、止めることができたのかは……それは分からない……」
「……ネコ姉は、もう、死んじゃった……。それだけは、どうしたって、変えられない……。
だからわたしたちは、その悲しみを、夏神さんのせいにしちゃダメなの。
ちゃんと受け止めて、3人で……ネコ姉の分まで、生きていかなきゃいけないの!!」
「……ううっ……ネコ姉……ネコ姉ぇ……!!」
……ついに限界が訪れたのか、マサルはその場に、
「うわああああああっ……!!」
それにつられて、アラタもまた、雨雲に向かって大声で泣き叫ぶ。
「……キョウカ」
「……はい……?」
「今の俺には、これぐらいしかできないが……」
俺は両手を、そっと広げた。
……キョウカは、今、一番のお姉ちゃんだ。
だからこそ、音葉を……大好きなネコ姉を失った今も、マサルとアラタのために、涙を
だけど、そんなキョウカだって、泣きたいはずなんだ。
だから、弟達の前では泣けなくても、せめて俺の前では……。
「っ……!! 夏神、さん……!!」
キョウカは、俺の身体に抱き着いた。
そして、顔や身体を
「ううっ……!! ひぐっ……!!
うわあああああああああっ……!!」
キョウカは、喉が張り裂けてしまわんばかりに、
……俺にはただ、その小さな身体を受け止めてやることしか、できなかった――。
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《次回予告》
『探したぞ。
「結局、俺は……《ヒューマネスト》になった音葉を、救えなかった。
この子達にも、深い心の傷を残してしまった」
『それならばいっそ、普通の子供らしく、分相応に生きるのも、一つの道だ』
次回――Episode 22 :【それでも少年は、歩み続ける】
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