Episode 13 :【〝猫宮音葉〟と名乗る少女】

 ――こうして俺は、4人組の少年少女に連れられて、彼らのアジトまで、なかば強制的に案内されることとなった。


 歩いて10数分の、天井が辛《かろ》うじて吹き抜け状態になっていない廃屋はいおく


 これなら雨漏りの心配はないし、簡易ライトで明かりも確保している様子だ。


 そしてその場所には、少なくとも彼ら四人が最低限の生活を送る分には、申し分ない程度の食料や物資が整っていた。


 

「そーいや、まだ挨拶あいさつしてなかったな。

 アタシの名前は、猫宮ねこみや音葉おとは

 アンタも聞いた通り、ゴホッ……他の子達からは、〝ネコ姉〟って呼ばれてる」

「……そっちが理由なのか。猫耳帽子を着けているからじゃなくて」


 思わず、心の中に思っていたことを口にしてしまう。


 いや、〝猫宮〟って苗字だから、猫帽子をかぶっているのか……? それとも、ネコ姉というあだ名から……?


「ああ、この帽子? これさ、昔はお姉ちゃんが着けてたものなんだよ。

 『きっと、オトちゃんも似合うよ』って言ってたけど、本当にこんなに合うなんてな。

 アタシのこと、いつもいつも、『オトちゃん、オトちゃん』ってさ……まさに、猫可愛がりってやつだったよ」

「……そう、だっんだな」


 ……その潤んだ瞳が、全てを物語っていた。


 だから、俺はそれ以上、その帽子については触れなかった。


「……あー、えっと、どこまで話したっけ? 

 ああ、そう、名前だ名前。

 まあアンタは、猫宮でも、音葉でも、呼びやすい方でいいよ。

 そんで? アンタの名前は?」


 ネコ姉こと、猫宮音葉は、折り畳み式のテーブルを広げ、質素な椅子に腰かけながら、俺の名を訪ねてきた。


 聞かれたならばと、俺は素直に答える――よりも前に、いくつか確認しておきたいことがある。


「……それよりも。

 さっきから、時々そういうせきをしているが……大丈夫か?」

「え? あー、うん、大丈夫。

 一週間前ぐらいからかな? ちょっと風邪かぜこじらせちまってさ。

こんなもん、リンゴジュース飲んでりゃ、そのうち治るって。リンゴジュースは、のどに良いからな!」


 そう言って音葉おとはは、アジトのすみ乱雑らんざつに置かれている袋から、リンゴ味の缶ジュースを取り出す。


 プシュッとふたを開けて飲み始めると、ほんのりとリンゴの甘い香りが、俺にも届いて来た。


「あの……よかったら、どれか1つ、どうぞ」


 控えめな声と共に、一人の少女が、いくつかアルミ缶が入った袋を差し出してくる。


 その体格からして、12歳前後だろうか。


 しかし、その仕草や声色からは、すでに大人びた雰囲気を感じ取れる。


「……ん? ああ、ありがとう」


 俺はありがたく、少女が持っていた袋から、ブラックコーヒーを受け取る。


 ……できれば無糖のものがよかったが、たまにはこういうのも悪くはないだろう。

 

 缶を開け、コーヒーを一口。


 ……やっぱり、俺には甘すぎるな。


「へー。アンタ、コーヒーとか飲めるんだ。おっとな~」

「……大人かどうかなんて、飲み物じゃ判断できないだろ。

 それに、君と俺は、見た目も歳も同じくらいだと思うが。

 ちなみに、俺は今年で16になる」

「えっ、16!? アタシも16! へぇ~、奇遇だね~!」


 先程までの警戒心は何処どこへやら、ぱっと笑顔を咲かせる音葉。


 その屈託のない笑顔からは、なるほど確かに、子供達から〝ネコ姉〟と慕われるだけの、人柄の良さが感じ取れる。


 背丈は俺より少し小さいぐらいだから、168cm……くらいはあるだろうか。


 それに、同い年の女の子に対して、そういう評価をするのは気が引けるが……彼女の体格は、いわゆる〝グラマラス〟というやつだ。多分だけど。


 だが、感情表現が豊かすぎるからか、目の前の音葉はやけに幼く見える。


 ……いや、むしろ俺の方が、年相応の子供っぽい感情を、置いてきてしまっただけかもしれない。


「俺の名前は、蓮本はすもと夏神なつみ

 『蓮の花の元に舞い降りた、夏の神様』……両親は、そういう意味を込めて、俺に名前を付けてくれた」

「ふーん、〝ナツミ〟か。いい名前じゃん。

 とりあえず、よろしくな、夏神」


 音葉が俺に向けて、右手を差し伸べてきたので、俺はそれに応え、握手をする。


「さて、今度は俺が質問をする番だな。

 他の3人を含め、君達はいったい何を目的とするグループなんだ?

 それにさっき、俺を『アタシらのチームに入らないか』と勧誘してきたが、それは何が目的で、何が理由だ?

 それに他にも――」

「ち、ちょっとちょっと!

 いきなりそんな質問攻めすることないじゃん!」


 音葉が、両手をババッと眼前に突き出してきたので、俺は仕方なく口をつむぐ。

 

「はーっ、まったく……。

 アンタ、顔はそこそこイケてる方だけど、あんまモテねぇでしょ?」

「君達を見ていれば、当然いてくる疑問だろう。

 それに、生憎あいにくだが、そういう挑発やはぐらかしには乗らないぞ」

「あーはいはい、分かった分かった、分かりましたよ。

 ったく……思ったより堅物だな……」

 ぶつくさと不満をれながらも、缶ジュースをゴクゴクと豪快ごうかいに一気飲みした音葉は、渋々と質問に答えてくれるようだ。


----------

(ネコ姉こと、猫宮音葉のメインビジュアルは、以下のリンクから)

→ 🔗[ https://www.pixiv.net/artworks/135450585 ]

または、プロフィールの紹介文のリンクから!

----------


《次回予告》


「アタシらは、〝TEAMチームCATSキャッツ〟。

 野良猫みたいに自由気ままに生きる、自由人の集まりさ」

「アンタがきたいであろうこと、先に答えといてやるよ。

まずは、『子供4人だけで、どうやって生活しているのか』、だろ?」

「こんな生活、いつまでも安定して続くものじゃない。もっと安全に暮らせる方法があるはずだ」


次回――Episode 14 :【〝TEAM CATS〟】

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る