Episode 3 :【託された想い】

「……しかし……どう考えても、普通の高校生に渡すような代物じゃないですよね、これ」


 鍛え上げた俺の肉体ですら、一発で吹き飛ばしてしまうほどの威力を秘めた《HEROヒーロー》。


 そんな兵器を、斎賀さいが先生は、平然と渡してきた。


 そんな先生に、俺は言い知れぬ衝撃を受けていたのだ。


 ……もちろん、「〝あの怪物〟を倒したい」と頼み込んだのは、俺だ。


 でも、こうして本当に、手にしてしまうと……どうしても斎賀先生に、思わず問いたくなる気持ちに駆られる。


「『この世界を変えたい』、などと息巻く人間は、そもそも普通だとは思わんがな。

 まったく、今のお前を見たら、死んだ両親はどう思うのやら」


 先生はわざとらしく肩をすくめ、ため息をく。


 痛いところを突かれた俺は、強引に話題を逸らす。


「……それにしても、よくこんな物を作れましたね。

〈アフターエリア〉には、〝治安維持型ちあんいじがた〟が巡回しているというのに」


 俺達が住むこの〈アフターエリア〉には、〝治安維持型フレンド〟と分類される機械人形が、日夜巡回している。


 そして、国家の治安に仇なす者に、容赦なく制裁を下す。


 こんな兵器の製造など、、許されるはずがない。


「老いぼれたとはいえ、私は歴とした科学者だぞ? 奴等フレンドの監視をあざむくことぐらい、容易いことだ。

 そもそも、ガラクタごときに邪魔されるいわれはないしな」


 斎賀先生としては、小粋なジョークとして言ったつもりなのだろう。


 だが俺は、そんな先生に対して、ふとした恐怖と疑いが浮かんでしまう。


 この人頭の中には、何か恐ろしいものがあるんじゃないか――と。


 それは、《HERO》をついに手に入れ、――そのことへの戸惑いも、あったのかもしれない。


「……一つ、聞いてもいいですか? 

 どうして先生は、ここまで俺に強力してくれるんです?」

「またその質問か。何度も言っているだろう。

 それが、お前の両親の遺言だからだ」


 ――かつては、機械工学の権威とも称されていた、有智高才うちこうさいな人物である斎賀先生。


 そんな先生と、俺を結び付ける共通点は、俺の両親の存在だ。


 斎賀先生は、両親の大学時代の恩師だった。


 そして、教師と生徒という枠を超えて、親睦を深めていたという。


 だからこそ、両親は、「もしも自分達の身に何かあった時、息子のことをよろしく頼む」と頼み込んでいた。


 ……先生が、嘘を吐いているとは思えない。


 だけど、どうしても……納得し切れない自分がいた。


「……だとしても、それと《HEROこんなもの》を作ることに、なんの関係が? 

 孫にオモチャを与えるのとは、わけが違います。

 所詮は、教え子の息子でしかない俺に、どうしてそこまで……」


 斎賀先生との付き合いも、かれこれ二年ほどになる。


 愛する両親をうしない、絶望に打ちひしがれていた俺に、先生は手を差し伸べてくれた。


 だから俺は、先生の手を握り返し、「自分を強くしてほしい」と頼み込んだ。


 その願いに、先生は応えてくれた。全面的なサポートをしてくれた。


 だから斎賀先生には、感謝しても感謝し切れないほどの恩義がある。


 そんな人を、今更にって疑っている自分が、嫌になる。


 だけど、一度芽生えた疑念を、簡単に拭い去ることはできない。


 そんな俺を見て、先生は、ため息交じりに言葉を返す。


「お前の両親――和泉いずみ莉桜りおは、他人の幸福を誰よりも喜び、誰よりも寄り添うことができる人間だった。

 機械にしか興味のない、冷淡でつまらない頑固爺がんこじじいにも……な」

「……父さんと母さんらしいです」


 思わず笑みが零れた。


「最初は、鬱陶しく思っていた。だが、次第にあの二人が作る空気が、心地良くなった。

 きっかけは些細で、単純なものだが……人に心を開く理由としては、十分すぎるものだ」

「……両親も、先生のことを、とても慕っていました。

 結婚を決めた時も、俺が生まれた時にも、家族以外で最初に報告したのは、斎賀先生だったと……そう聞いています」

いんよう、相反するからこそ、何か噛み合ったのだろうな。

 私にとって、あの二人は――血の繋がりを超えた、掛け替えのない存在だった。

 だからこそ、『何かあった時には、息子を頼む』と、そう言われた時――心が震えるほどに、嬉しかった」


 普段は、鉄仮面を着けているかのように、表情をちっとも崩さない斎賀先生。


 それが、今この瞬間は、柔らかな笑みを浮かべている。


 そこにに秘められた、感情の正体は――言葉にしなくても分かる。


夏神なつみ。お前は、無鉄砲で夢見がちな小僧だ。

 だが、両親譲りの、人を温められる優しい愛がある。

 私は、そんなお前の、背中を押してやりたい。

 それが――お前という宝物を託された、私にできることだ」


 先生が俺の手に、しわだらけの両手を重ねる。


 祖父が孫を愛おしむような、ぎこちないながらも、優しい笑み。


 そんな先生の笑顔を見た瞬間――俺の迷いは、完全に消えた。


 ――「この人の想いに、答えたい。もう一人の家族である先生へ、精一杯の恩返しをしたい」


 それこそが、心の底から湧き上がってきた、純粋な思いだった。


「……それで、出発は、いつ頃を予定している?」

「来年の、3月13日です。

 それまでの間、俺は――」

「『《HERO》を使いこなすための、トレーニングがしたい』、だろう?

 そう言うと思って、スケジュールはもう組んである」


 流石、斎賀先生だ。俺の考えなど、お見通しだ。


「……今すぐ、取りかからせてください」

「もちろんだ。湿っぽいのは終わりにして、時間は有効に使わんとな。

 ついてこい」


 斎賀先生が、自動ドアを抜けて、颯爽さっそうと歩いていく。


 俺もまた、深呼吸をして気を引き締めてから、先生の背中を追いかけた。


 この、腐り切った世界を、変えるために―ー。


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《次回予告》


《――「やーいやーい! 泣き虫のナツミちゃーん!」》

《――「夏くんの名前と誕生日はね。ママにとって、何よりも大切なものなんだよ」》

《――ママが、夏くんの名前に込めた想いを、知ってほしいの」》


次回――Episode 4 :【その名に咲く、想い】

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