氷水なら……

Nemo

綺麗な氷

 詳細は省くが、俺はふとしたきっかけで冥界に迷い込んでしまった。


 当然焦った俺だったが、亡くなった祖父さんと出会い、助言をもらったお陰で、現世に戻る方法を見つけ出した。


 ただし、もし地獄の炎で加熱したものを口にすると、二度とここから出られないらしい。


 逆に言えばそれ以外は問題ないということ。


 旅の間、腹が空けばサラダや刺身を食べて飢えを満たした。


 ああ、ご飯が恋しい。







 あと少しで現世への門に辿り着く。


 しかし、喉が渇いた。


 魔の悪いことに飲み水はもう持っていない。


 辺りを見回したとき、少し離れた場所に小さな食事処を見つけた。




「長旅お疲れだったでしょう。どうぞ冷たいお茶でもお飲みください」


 思わず頷きそうになるが、ここは我慢。


 お茶は煮出してるからアウトだ。


 品書きを注視し、どれがセーフか考え抜く。



 注文を待つ間、グラスたっぷりの氷水で喉を潤す。


 後もう少し。もう少しで家に着ける。





 食事を終え、来た道を戻り、目的地へと向かう。



 ようやく門へと辿り着き、鍵を差し込む。


 ガチャリと音がして、ギィとドアが開く。


 その先にあったのは……





 既に見慣れた冥界の荒野だった。


 ど、どういうことだ?


「残念でしたねお客さん」


 振り返ると、いつの間にか先程の店員が立っていた。



「お客さん、うちの店で水を飲みましたよね?」


ああ、そうだ。それがどうしたというのか。




「どの店でもそうなんですがね。氷を作るときは、一度沸騰させて水に溶け込んだ空気を追い出すんですよ。その方が綺麗な見栄えになりますから」

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