第6話 共闘

森の入り口。

ギルドから受けた小規模の討伐依頼の現場に、ユウとセイの姿があった。


「……で? ほんとに大丈夫? 記憶喪失くんに、魔物退治なんて」


ユウは腕を組みながらセイを見下ろしている。

セイは静かに頷く。


「……わかりません。でも……何か、身体が覚えてる気がするんです。戦い方とか……力の使い方とか」


「ん〜〜、まあ、万が一のときはお姉さんが華麗にフォローしてあげるから安心なさいな」


と、冗談めかして言いながらも、ユウの視線はセイの気配を注意深く観察していた。

──やっぱり、ただの少年じゃない。

構えすら見せてないのに、自然と“周囲への警戒”ができてる。

一瞬だけど、歩く姿勢すら整っていた。

身体のどこかに染み付いてる“戦い”の動き。


それは、何年も何十年も鍛えられた者の所作だ。


「さてと……じゃ、行こっか。モサモサの毛玉どもをしばき倒すぞー」


「……毛玉?」


「見ればわかるって。かわいくない見た目の、巨大ウサギみたいなやつよ。やたら跳ねて突っ込んでくるから、注意ね〜」


その言葉通り、森の奥で待ち構えていたのは――

三体の大型モンスター。体長は人間ほど、鋭い牙と異常に発達した後ろ脚を持つ《跳獣ラピコーン》。


「来るよ、セイ!」


一体が跳びかかる。

ユウが軽く手をかざすと、魔法陣が足元に展開される。


「《地鎖(ジバインド)》」


地面から伸びる鎖が、ラピコーンの足をがっちりと捕える。

だが、すぐさま二体目、三体目が別方向から迫ってくる。


「セイ、そっち任せた!」


「……はい!」


次の瞬間、セイの動きが変わる。


滑らかで、無駄がなく、それでいて獣のように鋭い。

空気が震え、セイの周囲に淡く光る紋様が浮かぶ。


──まるで、加護を受けた剣士のような……。


「あ……!」


セイの手に、どこからともなく剣が現れた。

透き通るような銀色の剣──光の粒が舞いながら、手に馴染むように現れる。


「行きます……!」


疾風のように一体目へ突進、すれ違いざまに剣を一閃。

ラピコーンの巨体が地面に沈んだ。


「ひゅ〜……やるじゃん」


ユウはニヤリと笑いながら、別の一体に指を突きつける。


「《雷鎖(ライチェイン)》」


バチン、と雷撃が走り、もう一体も沈む。


そしてセイが最後の一体に向かって剣を構えるが──

その時、敵の反撃が早かった。


「っ……!」


衝撃。

咄嗟に剣で受け止めたが、吹き飛ばされ、木に背を打ちつけるセイ。


「セイッ!」


ユウがすぐに詠唱を放つ。


「《氷槍(アイスランス)》!」


無数の氷の槍が空から降り注ぎ、ラピコーンを串刺しにする。

息絶えた敵の巨体が、地響きを立てて倒れた。


「……間に合ってよかった」


ユウが駆け寄る。

セイは、苦しげに息を吐きながらも、笑みを浮かべた。


「……ごめんなさい、足を引っ張って」


「何言ってんのよ。初陣であれだけ動けたら十分優秀よ」


ユウはセイの頭に手を置き、ふっと微笑む。


「それに、あの剣……召喚、でしょ? もしかして、あんたさ……」


ユウの瞳が細められる。


「……神の加護、持ってる?」


セイは目を見開き、唇を噛む。


「……わかりません。でも……そうかもしれません」


「うん。やっぱ、ただの記憶喪失じゃないな、あんた」


ユウは立ち上がり、森の奥を見やる。


「でもね、セイ。これだけは覚えておいて」


「……?」


「この世界、強さだけじゃ何も守れないことがあるの。だからお姉さんは……あんたを見てたいのさ」


セイは黙って、ユウの言葉を胸に刻むように頷いた。

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ユウは勇者と語りたい かれは @zonorei14

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