ツン 75% デレ 25%

 翌朝、通学路のコンビニに寄って、俺は真剣にパンを選んでいた。


(……ツン子の好きなやつ、たしか――)


「チョコクロと、メロンパン。あとあいつ意外とカレーパンも好きだったな……」


 ビニール袋を下げて教室に入ると、すでに彼女は席に着いていた。腕組みしてツンとそっぽを向いてる。


(あ、怒ってる……? まだ……?)


 恐る恐る近づいて、声をかける。


「……ツン子、おはよう」


「ふん」


 短い。返事が短すぎる。

 でも、俺はそこで怯まなかった。


「昨日の、ほんとにごめん。はい。君の好きなパン、買ってきた」


 そっと差し出す袋。

 ツン子は、ちらっと横目で中を確認して――


「……あんたさぁ。なんで私の好み、そんなに把握してんの?」


「いや、自然に覚えてた」


「キモいんだけど」


 口ではそう言いながらも、袋を受け取ってくれるあたり、今日の彼女は少し優しい。


「しかもさ、カレーパンとか。……朝から重いし」


 でもその手は、ちゃんとカレーパンに伸びてる。


「じゃあ返す?」


「返さない」


 即答。


「……別に、許したわけじゃないから。パンごときで機嫌取れると思ってるなら、バカ」


「そう言いながら食べてくれるの、優しいね」


「べっ、別に優しくなんかないし!」


 ぱくっ。

 頬をふくらませて、パンをかじるツン子。


(……ちゃんと、美味しそうに食べるんだよな)


「……次、ヘタこいたら、倍の数買ってこさせるから。覚悟しといて」


「はいはい。次は何パンがいい?」


「……それは、その時に教えてあげる。バカ」


 頬を染めながら、そっぽを向くその姿に――今日もまた、好きが止まらなくなりそうだった。




 放課後の教室部活も終わって、廊下にはほとんど人がいない。


 俺が黒板を消していると、後ろの席からぼそっと声がした。


「……ねえ」


 振り返るとツン子が鞄も持たずに椅子に座ったまま、膝に頬をのせてこちらを見上げていた。


「なに?」


「……べつに」


「なんだよ、それ」


 笑いながら近づくと、ツン子はじっと見つめてきた。


「今日さ……なんでチョコクロじゃなくて、カレーパンから渡したの?」


「え? 急に?」


「……チョコクロのほうが甘くて可愛いのに」


「甘いのは朝からじゃキツいかなって思っただけ」


「ふーん。……じゃあ、私のこと大人っぽいって思ってるってこと?」


「え? いや……まぁ、そう……かな?(意味が分からないけど、辛いの食べれる=大人だと思ってるのか?)」


「……そっか」


 静かに立ち上がって、ツン子が歩み寄ってくる。ふたりの距離がどんどん縮まっていく。


「でも……」


「……?」


「カレーパン渡すときに、君の好きなやつって言ってたよね」


「うん」


「……それ、ずるい。そういうこと言われたら、また怒れなくなるじゃん」


 真っ直ぐな瞳で、俺の胸元に額をコツンとくっつけるツン子。


「ツンツンするの、けっこう体力使うんだからね……」


「じゃあ、休んでいいよ。俺の前では素直でいていいから」


「……は? 誰が?」


 そう言いながら、彼女の手は俺の制服の袖をそっとつかんでいた。


 ほんのちょっとだけ震えた声で、ぽつりとひとこと。


「……もうちょっとだけ、こうしてていい?」


「もちろん」


 放課後の教室に夕焼けが差し込んでいた。

 ふたりの影が静かに重なっていく。

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