ぼっち探索者、魔物のフリをする
月姫ステラ
第1話 最悪の魔物、顕現する
新宿ダンジョン36階層(中層)にて、4人の探索者は逃げていた。
「な、な、なんだよアレ!!中層にいていい強さじゃねぇ!」
「イレギュラーなんて聞いてないぞ!」
「はやく逃げろ雪音!追いつかれるぞ!」
雪音と呼ばれた女性は1人逃げ遅れていた。
背後から迫る気配に怯えつつ逃げ惑う。
「待って…!足が…もたない…!!」
雪音は転倒してしまった。
すると、背後から迫ってきた気配が通り過ぎたと思ったその時…。
前方3人の首が同時に飛んだ。
「え…?」
雪音は驚愕の表情を見せるが、時既に遅し…。
雪音は突如、吐血をする。
意識がなくなっていくのを感じた。
一瞬視界に写ったのは、泣き別れになった上半身と下半身、それとそこに佇む黒い馬とそれに跨る黒い鎧だった。鎧が持っていた槍には血液がこびりついており、先からは血が滴り落ちていた。
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時は遡り、1週間ほど前のことである。
探索者活動を始めて2年が経った頃、下層にてデュラハンを見つけた。それで軽く捻った後、つけていた鎧を奪い取った。それを自身用を改造した結果、自分自身でも納得のいく鎧が完成した。
「おぉ、着心地は最高だな。あとは馬さえ居れば黒騎士みたいになれるか?」
探索者稼業をしてきて、本来であれば奈落層まで潜れる実力はあるが、魔物との対決に飽き飽きしつつあった。成果を報告していないため、探索者としては下から2番目と有象無象に埋もれる。
「人として戦うのはナンセンスだ。魔物のフリをして人を襲うのがいい。」
ド〇クエに登場する黒騎士という中ボス、あれの姿のかっこよさに痺れており、あれのようになりたいと思う時があった。
ついに、あの姿になれる兆しが見えてきたのだ。手頃な馬を探すが、下層程度だと直ぐにやられてしまう。奈落層にいい馬がいればいいが。
奈落層
そこは、常人がたどり着くことが出来ない領域であり、ひとたび地上に出れば世界中に被害を及ぼすであろう魔物がひしめき合っている。
対人型戦闘を得意とする魔物や、対多戦闘を得意とする魔物などが、己の縄張りを持ちながら行動している。
魔物同士の衝突事故もチラホラ見受けられるため、探索者が巻き添えを食らうことがある。
そんな所に降り立った。
「さて、いい馬は見つかるかねぇ。」
ナワバリに平気で侵入し、ヌシを叩き起こす。そして一方的に屠る。食事に困れば倒した魔物を喰らうことで命を繋ぐ。
そんな行動を4日続けたある時。
目の前に黒いモヤを放つ、鎧に身を包んだ黒い馬を見つけた。目は赤黒く光っており、こちらを睨みつける。
見た感じは、この奈落層においても辺りを彷徨いて生き残れるレベルで強い事が伺える。
「こいつだ。」
乗りこなすにはまず、こいつとの力関係を分からせる必要がある。
「俺が上だ。そしてお前は俺の下僕だ。」
このセリフに馬は激昂する。
馬は姿を消した途端、辺りはモヤに包まれる。
方向感覚を奪うつもりなのだろう。
四方八方から弾幕が飛んでくる。その合間を縫って馬は蹴りを仕掛けてくる。
他の奈落層の魔物とは一線を画すレベルの攻撃の威力にこちらも笑みがこぼれる。
「こいつは強ぇ。」
それから半日はこの馬と戦い続けた。
馬にトドメの一撃を食らわせる事はしない。俺の馬になってもらうからだ。
「乗馬させろ。」
たった一言呟く。それだけで辺り一帯の壁や地面がドロドロと溶けていく。
圧を強くしたかいがある。
馬は降伏したようだ。念話を使い、馬と乗り方について話した。
そして1時間もすれば見事に乗りこなしていた。
ただこれでは人が乗っているだけだ。魔物風に近づけるには相手の鑑定や看破をすり抜ける必要がある。鑑定されて人だとバレれば意味が無い。
と言っても自身を鑑定できる存在は居ないと自負する程度には妨害術も鍛えている。
この次は声を発することだ。人間の声のままでは鑑定されずともバレてしまう。
魔道具頼りではダメだ。魔物になりきるには、声も気配も動き方も全てをマスターせねばならない。
人としての要素を垣間みせてはいけないのだ。
声の出し方は鎧をつけないで練習する。
だが、この問題は案外すぐに解決することになる。
理由としては魔物を食らっている事だ。人ではあるが、魔物の力を得ている事により、変声がいとも簡単に出来たのだ。
もはや自身を人と呼ぶのはどうかと思うが。
次にバレない変装だ。コスプレのような感じではダメだ。鎧を脱いだ姿を、誰がどう見てもこいつは魔物だ、と。そう認識されるようにするのだ。
変身系の魔物を何度も食らっている事もあり、自身の顔や体つきをいじれるようになった。臓器や骨、筋肉なども弄ることにした。
人間の臓器を見られては意味が無い。しっかりと魔物のふりをするためには必要な事である。
そして、ひとつ大事なことがある。
それは、フリをするということだ。ということは、人としての生活も続ける事にある。周りにそれがバレてはいけない。誰かと行動する際に、力の一端を見せないことも重要だ。そこから、黒騎士としての自身と繋げられる可能性もある。そこら辺も徹底するのだ。
次は得物だ。自身はありとあらゆる武器を修めている。これはいかなる状況においても動けるようにするためだ。そしてしっくり来たのは弓を背中に担いで、槍を左手に構える感じに定着した。
「最後は名前だな…。厨二臭くとも構わない。魔物ならばそういう奴がいてもおかしくない。」
単独で行動するが、背後には他の魔物も控えているぞという雰囲気も醸し出すためには、何かしらの役職じみたものも名前につけておきたい。自身と戦うならば多対多の可能性も相手に植え付けておきたい。
「深淵って感じだな。よし、決めたぞ。」
「深淵の暗黒騎士総長リュグナー。これに決めた。」
なかなか厨二臭い名前だ。だが魔物として行動するならばこの名前も強く響かせることが出来るはずだ。
よし、準備は整った。
早速中層辺りまで行くとしようか。階層を移動できるイレギュラーの魔物として認識されるのがいいか?それとも何人か犠牲者を出して調査団を誘き寄せるのも面白い。そこそこ強い探索者が来てくれた方が今後の魔物稼業が捗るだろう。
「死ぬならば探索者と戦って魔物のフリをして死んでみたいものだ。」
そして、中層へと向かった。
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