第46話 うちの子は寝ない。そして、私は叩かれた。
うちの子は、寝ない。
上の子も、下の子も。ほぼ遺伝か?と思うレベルで寝ない。
新生児の頃から睡眠時間が短く、「夜は寝るもの」とか「成長ホルモン」とか、まるで他人事。
最初のうちは「寝かしつけって難しいね〜」なんて言っていたけれど、そのうち気づいた。
――あ、これ、私のせいだと思われてるな、と。
いや、思われるどころじゃない。断言されたのだ。
保育士、ママ友、見知らぬネット民。
みんな口をそろえて言う。「早く寝かせればいいのよ」って。
長女のとき、自分のせいだと思い私は必死で努力した。
朝早く起こす。お風呂で体温を上げる。日中に公園で遊ばせる。
でも効果は「最初の一回だけ」。二回目以降は無効化される。
ある日、疲れ果てた私は、娘が寝た後にネット掲示板に泣きついた。
「寝てくれなくて困ってます」と、ただそれだけ書いた。
返ってきたのは、
「こんなとこ書き込むヒマあるなら、さっさと寝かしつけろ」
……人って、こんなに冷たかったっけ?
当時、私はフルタイム勤務。モラ夫は一切育児せず、完全ワンオペ。
娘が寝たら寝たで、今度はモラ夫の“お世話タイム”が始まる。
娘が起きていれば娘。
寝ればモラ夫。
私には一秒の休憩もなかった。
だから「早く寝かせれば?」というアドバイスは、地獄の引き金にもなった。
寝かせたら、別の地獄が待っていたのだから。
さらに、土日も家にいられなかった。
モラ夫が怖くて、娘を抱っこ紐に入れたまま朝から晩まで街をさまよった。
無駄に詳しくなるショッピングモールのトイレ事情。
そんなある日。発達障害のある子の親向けコミュニティに、勇気を出して投稿した。
「寝てくれなくて困っています」――ただそれだけ。
返ってきたのは、
「夜更かしさせる母親なんて最低」
「あなたみたいな親のせいで、発達障害が誤解される」
そして極めつけは――
「土下座して謝れ」
……いや、ただ相談しただけなんですけど?
もちろん守ってくれる擁護してくれる人も多数いたのだけど、たった二人の攻撃的な人が蛇のように粘着質に私を全方位から攻撃した。
震えながら投稿を削除したが、その言葉の痕跡はいまだに心に残っている。
「寝ない子の母親」は、それだけで敵認定されるらしい。
追い打ちをかけるように、モラ夫からのメール。
添付されていたのは「寝かしつけられない母親は最悪」という記事のリンク。
「どうせ読まないと思うけど」と一言。
……今でもURLを覚えている。トラウマってそういうものである。
思い出すと、今も体が固まる。
どうしてここまで、母親だけが責められるのだろう。
寝ない子は、育て方の失敗じゃない。
体質や発達の特性が複雑に絡み合っているだけだ。
「最初の一回だけ効くけど二回目は効かない」――それ、典型的な特徴なのに。
でも「あなたの努力不足」と言われたときの絶望といったら。
そして本音を言うと――
娘が寝てくれない時間だけが、私にとっての“安全地帯”だった。
娘が起きていれば、私は「育児中の人間」。
でも寝てしまえば、私は「家事もモラ夫対応もできる人間」に早変わりする。
寝かしつけが成功すればするほど、別の地獄が始まる仕組みだった。
最終的に私は倒れた。
体を壊し、通院が日常になった。
それでも誰も「よく頑張ったね」とは言ってくれなかった。
ただただ、「寝かしつけられなかった母親」というレッテルを貼られただけ。
それでも今、私は思う。
あの頃の私は、精一杯やっていた。
でも「寝ない子の親には選択肢がない」ということを、誰も教えてくれなかった。
だからせめて今、ここで言葉にしておく。
寝ない子は、いる。
それは親のせいじゃない。
寝かしつけられなかった母親が最低なわけじゃない。
夜中に子どもと戦っていた、あの頃の私。
――よく生き延びたな。
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