第5話 ゾンビ、ようやく評価される ~「勉強」は昔から得意だった~
小学校高学年のころ、私は「ゾンビ」と呼ばれていた。
ボサボサ頭に猫背、よろよろ歩いて死人みたいな顔。目の下にはクマを常設。
冗談みたいだけど、割と本気で生気がなかった。
でも、そんなゾンビにも特技があった。――勉強が得意だったのだ。
幼稚園では「おつりが少なくなるように」と買い物計算。
小学4年生にもなると、時事ネタを肴に大人とディスカッションするという、謎の老成ぶりを発揮していた。
けれど、どもり・早口・挙動不審・空気読めない。
そんな「不審者スキル」が先に目立ち、誰も「すごいね」とは言ってくれなかった。
評価? なにそれ、おいしいの?
そんなある日、父がポツリと言った。
「この子、公立じゃ内申点が厳しいな。私立に入れよう」
その一言で、私は塾に放り込まれた。いや、押し出された。
そこから、世界が変わった。
塾では、点数がすべて。言動のクセなんてどうでもよかった。
ようやく、私の脳みそが役に立った。
複雑な算数も、小難しい文章題も、なぜかスラスラ解けた。
先生もクラスメイトも、「お前、すげえな」と褒めてくれる。
勉強ができる変わり者。ちょっと変だけど、話すと面白いし、なんか頭いい。
……なんだその評価、最高じゃないか!
私は人生で初めて、「友達」と呼べる存在を手に入れた。
その嬉しさは、今でも鮮明に覚えている。
塾に行くのが楽しくて仕方なかった。生まれて初めて、自分の居場所を見つけた気がした。
そして私は、心に決めた。――勉強で、生きていこう。
私にとって、勉強は「ゾンビ」から「人間」になる魔法だった。
ただし、この状況を一番冷静に見ていたのは、やっぱり父だった。
「まあ、この子は俺の子だからな。そんなの当然だろ」
母がヒステリー気味に「この子は変わり者!」と騒ぐたび、
父は茶をすすりながら、平然と言い返していた。
「東大なんて、変なやつばっかだよ。むしろ、正常なほうが珍しい」
そのセリフには、慰めも励ましもなかった。
でも不思議と、安心できた。
父の目には、私は“変人の子”として、何の問題もなかったのだ。
そして私は、テレビで見た“変わり者の成功者”たちに憧れるようになった。
「海外でなら、生きられるかもしれない」
世界で活躍してる人たちは、自由だった。
日本みたいに、ルールや常識でガチガチに縛られていない。
アメリカのような多様性の国なら、私もきっと許される――そんなふうに思った。
この時に抱いた夢。
それがのちに、私を縛る“呪い”になることを、当時の私はまだ知らない。
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