第4話 「普通」になれなかった私と、砂と、ゲームの話。
小学校に入れたことを、母はとても喜んでいた。
「普通の子として扱ってもらえる」――それは、当時の親たちにとって、安心の証だったのだろう。
けれど、その“普通”という枠の中で、私は最初からはみ出していた。
低学年の体育の時間。
みんなが運動場で行進の練習をしている中、私はひとりで砂をいじっていた。
サボっていたわけじゃない。ただ、目の前に砂があった。それだけのことだ。
ふと顔を上げると、みんなははるか遠くへ行っていた。
置き去りにされたことに気づいて、慌てて追いかけた。
でも、泣いた記憶はない。私は、そういうタイプじゃなかった。
授業中も似たようなものだった。
黒板を見ず、ずっと窓の外を眺めていた。
授業内容は記憶にないけど、教室の空気の重さと居心地の悪さだけは妙に覚えている。
私の「変さ」は、誰が見ても明らかだったと思う。
でも、悪気がある子ではなかったし、先生たちも「なんとか“普通”に近づけよう」と根気よく接してくれていた。
母も、きっと必死だったのだろう。
それでも、私は孤独だった。
なぜなら、人に興味がなかった。
会話がとにかく苦手だった。
ひどいどもりと早口で、何を言っているのか分からないとよく言われた。
頑張って話すと、同年代の子たちは私のどもりを真似して笑った。
それに腹を立てて、私は癇癪を起こす。自分でも手がつけられなかった。
でも、それでも「寂しい」とは思っていなかった。
今になってようやく、あれは“寂しさ”だったのかもしれない、と気づく。
だけど当時の私は、人間的な感情なんて持っていなかった。
ゲームさえあればよかった。
私はゲームの中なら、いつだって主人公だった。
現実の人たちは、ただのノイズ。理解不能で、時に邪魔で、意味不明な動きをする存在だった。
私は本気で、人を人だと思っていなかったのかもしれない。
今も頭に残っているのは、ゲームのマップやNPCのセリフばかり。
人の顔や会話は、驚くほど何も残っていない。
「寂しいふりをしていた」とか「無関心を装っていた」とか、そんな可愛げのある話じゃなかった。
そもそも、“ふり”をするという発想すらなかったのだ。
私がほんの少しだけ、人間らしくなるのは――小学6年の頃のこと。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます