スキルツリー・ゼロ

Dr.cat

第1話

 世界には、生まれた瞬間からひとつの「運命の樹」が存在する――

 それは人間の内側に宿り、「スキルツリー」と呼ばれている。

 魔法、剣術、錬金、感覚強化、支配、転生、召喚……その枝は無数に分かれ、選ばれた者に力を与える。


 だが、力に目覚める“時”は、人によって違った。

 運命の扉がいつ開くのか――それは誰にもわからない。


 そして、ここにひとり。

 まだ何のスキルも持たぬ少年がいた。


 彼の名は――カイル・アルグレイヴ。


 カイルが育った街の名はヴァルメイア。

 雲に届くような高い尖塔が立ち並び、冒険者が集うこの街は、数々の英雄を生み出した“始まりの地”として知られている。

 中でも語り草になっている冒険者がいる。三本指に入ると言われた伝説の男――ロウガ・アルグレイヴ。

 そう、カイルの父親だった。


 だが、ロウガはある日、“世界で誰もたどり着いたことのない場所”へと到達したという記録を残し、忽然と姿を消した。


 その出来事は、カイルがまだ7歳の頃だった。


 忘れもしない、あの日。

 父とその仲間たち――錬金術師のハイド、魔弓使いのレイナ、重剣士のゴルム――とともに、不思議な門のような場所に立っていた。


 門の向こうに、父ロウガが足を踏み入れた瞬間――

 彼の姿はまるで霧の中に溶けるように、消えた。


「ロウガ!!」


 ハイドの叫びと同時に、レイナがカイルを抱きかかえ、グランヴァルスに乗せる。

 それはこの世界でも屈指の移動手段であり、異世界のウマのような存在。角と羽根を持ち、空を駆ける美しい生物だ。


 カイルを背中に乗せたグランヴァルスは、大空を裂いて飛び去った。

 父が消えたその場所には、静寂だけが残された。


 それから10年。


 カイルは冒険者の街ヴァルメイアで育ち、王立冒険者学園の三年生となった。

 最高学年であり、街の外でモンスターと戦う許可もある。


 幼い頃から過酷な旅を体験してきた彼は、誰よりも身のこなしが軽く、誰よりも行動力があった。

 だが、唯一の欠点は――スキルに一切目覚めていないということだった。


「じゃあ今日は、剣術の基礎“型”を確認してから、魔法の操作に入る。教本は第7章を開け」


 退屈な授業の中、カイルはぼんやりと空を見ていた。

 スキルツリーがある。それは誰にでもある。

 でも、自分には何もない。


 いや、もしかしたら……まだ見つけてないだけかもしれない。


 カイルは瞑想のように目を閉じ、集中する。

 呼吸を整え、何も考えず、“無”に沈む。


 ――そのときだった。


 真っ暗な空間に、何かが“見えた”。


 いくつもの目立つの大きな円、光は灯っておらずただその場に佇んでいる。

 そこから無数の線が四方八方に伸びている。

 その中心には、まばゆいほどの光る印。


 その印は――



「……なんだ、これ」


 思わず口に出すと、空間がグラッと揺れた。

 気づけば、現実に引き戻されていた。


「おい、カイル!授業中に寝るな!話を聞け!」


 先生の怒号により、意識が戻る。

 ただの妄想だったのか?……いや、あれは確かに“あった”。


 ∞の印――スキルツリーに存在するはずのない形。

 だが確かに、“それ”は中心で光り輝いていた。


 放課後、友達のジーンとミリアに誘われ、今日のバトル演習について話しながら帰路につく。


「おまえまたボーッとしてただろ、カイル。先生マジ怒ってたぞ」

「でも、いつかは絶対、カイルも覚醒するよ!ミリア予言する!」


 明るく励ましてくれるふたりに笑いながら、カイルは言葉を濁した。

 本当のことを話すには、まだあれが何か分からない。


 その夜。


 ベッドに横たわり、天井を見つめる。


 ――あの印は、なんだったんだろう。

 スキルツリーの中に、あんな“始点のような場所”が存在するなんて。


 まるで、“すべてが始まる場所”のようだった。


 もしあれが本物で、他の誰にもない“スキルの始点”だとしたら……


 カイルはゆっくりと目を閉じた。


 そして、この瞬間も

 彼の中で何かが静かに、しかし確実に“動き始めて”いた。

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