時をかけた少女と角川映画

つばきとよたろう

時をかける少女

 もっとも有名なSFの原理は何でしょう?

 手が上がりました。下ろしてください。

 もっとも有名なSFの原理は、科学的には相対性理論で簡単に言えば、早く動く物体では時間がゆっくり流れるというものです。

 例えば宇宙船が高速移動して、地球に帰ってくると数十年が経っていたという話です。

 ではSF的に象徴的な原理はというと、ワープ航法やタイムトラベルでしょう。どちらも小説に限らず、映画やアニメ、ドラマまでにも多くその原理が使われています。使い古されていると言っていいですが、その昔からある原理が今も尚、続々と作られています。たとえそれが現実的には不可能だったとしても興ざめせずに、むしろ斬新なアイデアを伴って人々を魅了しているのは不思議です。


 そう言った作品群の中に、古いアルバムを眺めるみたいに、私は時々見たくなる映画があります。


 時をかける少女

 

 その映画は1983年に角川映画によって公開されました。原作は筒井康隆の時をかける少女、監督は尾道三部作、広島県尾道を舞台にした映画で人気を博した大林宣彦監督です。尾道はまるで時が止まってしまったような、どこか懐かしい町並みです。

 その町で繰り広げられる不思議なストーリーにわくわくします。初めて観たのはテレビだったと思います。


 簡単にあらすじを説明しますと、学校の掃除時間、理科実験室でおかしな物音を聞いた主人公の芳山和子が不審に思い、中に入ってみると、ガラスの割れる音と煙、ラベンダーの香りを嗅いで気絶します。

 理科室に帰ってきた同級生の深町一夫と浅倉五郎に介抱され、保健室に運ばれます。理科実験室であったことを先生や同級生に伝えますが、もう一度理科実験室に戻って確かめてみると、何も変わりはありませんでした。


 その日から彼女の身の回りでおかしな出来事が起こるという話です。主人公はタイムリープ、時間移動が出来てしまうのですが、決してそれは過去や未来に行けるから、凄い楽しいと歓楽的にならないところが面白いです。


 機会があれば、また鑑賞したくなる映画です。話の内容は既に覚えています。あっ、やっぱりそうなったと、まるで確認するようにストーリー展開を追うのも、好物のコーヒーを飲む至極の時みたいに楽しいものです。結末は分かっています。いつもとても儚く切なくなります。


 本映画で初主演の原田知世さんが、とても初々しくて魅力的です。原田知世さんは現在も現役で芸能活動をされており、本当に時をかける人になってしまいました。


 映画の反響が良ければ、原作も注目されますし、原作がベストセラーなら映画の期待も大きいはずです。それでも原作のある映画は興行収益的には、上位になるのは難しいところがあるようです。

 時をかける少女は、その年の邦画の興行収益二位を記録しました。大健闘でした。ちなみにその年の一位は南極物語で、今年健闘している国宝の歴代実写映画の上位にいます。

 日本はアニメが強いので小説はコミック化され、アニメ化された方がいいのかもしれません。ただ売れている漫画は原作ばかりで、大きく成功しているのは約束のネバーランドくらいでした。

 時をかける少女はアニメ化もされているので、原作がアニメ化されて成功している小説と言えるでしょう。鬼滅の刃は一強ですが。


 小説の映画化は原作に忠実に再現されるものと、監督の原作の解釈によって大きく変更されたものに分かれるでしょう。これが一番原作のファンが頭を悩ます、あるいは期待するところでしょう。


 時をかける少女は大筋原作通りに作られていますが、原作にないシーンや変更されたところがあります。原作を読んだ人でも楽しむことが出来る映画になっています。私の場合はテレビで映画を観た後に、気になって原作を読みました。

 例えば違っているところは、冒頭のスキー場のシーンやその帰りの電車のシーン、そしてラストのシーンなど細かく言及すればきりがありませんが。特にラストのシーンは原作にはなく、いつも何とも切ない気持ちにさせられます。原作に付け加えられて成功しているシーンだと言えるでしょう。


 憧れの女の子というものは、いつも真面目で直向きな幼馴染よりは、突然現れたちょっと夢想家の転校生みたいなタイプの男の子に惹かれるのだなというのがセオリーなことを実感させてくれます。

 これが小説よりも、印象的に登場人物の関係を分かり易く表現してあると思います。


 そして衝撃的だったのはエンドロールです。今では当たり前になった撮影現場の風景を、主演の原田知世さんが歌うのと一緒に見せているという感動的なものでした。

 切ない結末からまだ覚めない間に、流れるエンドロールがその切なさを、原田知世さんの歌と現場の和気あいあいとした風景が流れ癒してくれます。


 そして最後に大きなサプライズがあるのです。これはファンにとってありがたいサプライズでしょう。あるいは小説でいうなら、メタフィクションなのかもしれません。この加減がとても謙虚で誰が見ても心地いいものでしょう。

 

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時をかけた少女と角川映画 つばきとよたろう @tubaki10

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