真穂ちゃん❶子供時代編
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真穂ちゃん
❶
日焼けで真っ黒に日焼けした細身でつぶらな瞳の真穂ちゃんが、同世代の男の子3人を引き連れてあぜ道を闊歩している。
。
ミッキーマウスの顔が大きくプリントされた真穂ちゃんお気に入りのオレンジ色のTシャツがシャキッとしていた。そうとう着くたびれているTシャツにもかかわらずにである。 真穂ちゃんが着ていると、よれよれのミッキーでも光り輝いて見えた。
真穂ちゃんたちは、肩に担いでいた竹の棒を横に置き捨て、葉っぱに止まっているカエルを捕まえると舗装道路面にカエルを叩きつけて失神させた。気絶したカエルの足の皮を剥いで足を引き抜いた。ポケットから取り出した糸を歯で適当な長さに切ってその足先にくくり付け、竹の棒の先にも反対側の糸先をくくり付けて、竹の棒を釣り竿にして餌のカエルの足を側溝に投げ入れた。3人の男の子たちも真穂ちゃんと同じ仕掛けの釣り竿で、つぎつぎに釣りを始めた。4本の釣り竿は、すぐに引く反応をし始めたかと思うと、ザリガニがどんどんと釣り上がっていった。間断なく、あぜ道でザリガニが釣り竿の糸から離れて、道に放たれ、水分か隠れる場所をを求めて右往左往移動しているように見えた。子どもたちは、バケツ等にザリガニを捕まえることなく、釣り上げることだけに夢中になっていた。
木登りしよう!との真穂ちゃんの突然の掛け声で、餌のカエルの足を糸から引き剥がして側溝に捨てた。木登りで遊ぶ真穂ちゃんの家の裏あたりを目指してこどもたちは竹の棒を肩に担いでダッシュした。
薄暗くなり始めて、真穂ちゃんの母親のどこからともなく聞こえてくる『もう帰ってきなさいコール』が聴こえるまで、木々の上で遊びほうけた。
❷
『ただいま』と台所のドアを開けて母親に帰宅を告げると豆腐と前日までに捕まえた泥抜きしたドジョウを確認しながら、「きょうも柳川鍋だな」とつぶやきながら、祖父母の部屋に向かった。
『今晩釣りに行くの?』と真穂ちゃん
『行くよ。真穂ちゃん、起きていられるかなあ?』とおじいちゃん
『大丈夫!!』という言葉をのこして、踵を返し、真穂ちゃんは台所へ急いだ。
母親が2丁の豆腐を鍋に入れたところだった。まだ、ドジョウを投入する前だった。
真穂ちゃんは、意地悪そうな微笑みを浮かべ、『間に合った』と呟いた。
豆腐が入った鍋にザルの中で蠢いているドジョウを入れて、鍋に蓋をしガスコンロへ移動させ火をつけて沸騰させた。バシャバシャとコンコンと混じった音が10秒ほど激しく聞こえた後静かになった。ドジョウが少しでも涼しい環境をもとめて豆腐の中に入り込んでいるのだろう。
真穂ちゃんは、ドジョウの最後の断末魔を見届けて食卓についた。
1日の仕事を終えた父親は、日本酒を肴もなしにすでにコップ酒していたが、柳川鍋には少し箸をつけた。
おじいちゃんと真穂ちゃんは、家の女性陣が嫌がる天然のドジョウのなまめかしさをものともせずバクバクと平らげていった。
「斎藤さんちのブタが逃げてますよ」とご近所から連絡があり、真穂ちゃんと母親は台所を飛び出だした。逃亡した子豚を捕まえるためである。真穂ちゃんは、ご近所に、この連絡をうけるのがたまらなく恥ずかしくて本当に嫌なお手伝いだった。
「真穂ちゃん!どくろうさま!明日は、子豚の出荷だから、動物のカンで逃げ出すのかな?」「おじいちゃん、倉庫で待ってるよ。」と父親が言うと真穂ちゃんは、棒のソーダアイスを冷凍庫からとりだして口にくわえて、倉庫に向かった。
3年間真穂ちゃんが瀕死の子豚の健太郎に餌(残飯)をあげて育ててあげてきた。明日が屠殺場へ向かう健太郎との今生の別れだ。【ごめんね健太郎。あたしがまだ小さくて不甲斐ないから】と健太郎に目に涙を浮かべて頭を下げた。健太郎と家出して叔母さんにお世話になると心に決めていたが、ブタはひきとれないと言われアッサリ家出は頓挫していた。
おじいちゃんに、仕掛けも餌の入手も取り付けもすべて頼っている現状に、『かわいい孫との釣りだからしかたないよね』とうそぶき、ほんの少しの良心の呵責を投げ飛ばして、懐中電灯で道を照らすおじいちゃんの手を握って釣り場に仲良く歩いていった。
餌のミミズをおじいちゃんに針につけてもらい釣り竿の先に鈴を付けてうなぎが食いついたらわかるようにした。同じ仕掛けを5箇所に設置した。
おじいちゃんとあぜ道に座って鈴が鳴るのを待っている間、たくさんのホタルが真穂ちゃんの眼の前で舞っているのを見ていた。
三箇所で、鈴の音がリンリンと三箇所で鳴り始めた。もっそりとおじいちゃんが、立ち上がり、一番近い仕掛けの引き具合を見届けると
「真穂ちゃん!かかったよ。引いて。」
ジタバタ蠢く物体をたしかめながら、「大きいうなぎだ!やった!』と真穂ちゃんがガッツポーズをして、地面へ引き上げた。おじいちゃんが細かい網目のフィシングネットに針を引き抜いてうなぎを入れた。
その夜は、もう2か所でも同じような光景が見られた。合計3ぴきの釣果だった。帰り際に、ドジョウの仕掛けの成果をバケツに入れて帰宅した。
❹
真穂ちゃんは、ブタたちのブーブーという鳴き声で起きた。真穂ちゃんは、二階の寝室の窓から、健太郎をのぞきこんでみた。もう姿は見つけられなかった。ブタたちは、トラックで運ばれていった。仲間のブタが戻って来ないことをわかっているかのようにしばらくブーブー鳴いていた。母親は、台所におりてきた真穂ちゃんに健太郎には朝ごはんをあげておいたからねとだけ言った。真穂ちゃんは、もう健太郎はいないんだと心が涙した。
お昼近くになると母がバーベキューの支度を終えていた。
父が空のトラックで帰宅すると助手席に置いてあるブタの内蔵がたくさん入っているビニール袋を母に渡すと『真穂ちゃん、神社にお参りに行こう。』と誘った。
並んで歩き出して1分半程すると、父はおもむろに話し始めた。
「今日もたくさんのブタを売って、屠殺してもらった。人間は、生きていくために、生き物を売ったり、屠殺したり、食べたりしている。せめて、殺して食べる生き物は、できるだけ、余す所なく食べてあげなければいけない。そして、神社でありがとうございますと私は祈ることにしている。』
小さな神社に到着すると二拝二拍手一拝をして二人は拝んだ。真穂ちゃんは、健太郎とブタたちとドジョウに。
1日一回神社への参拝とご飯の前に手を合わせることを本日以降真穂ちゃんは欠かさずすることになった。
斎藤家の庭に戻ると母は焼き終えたブタのサイコロステーキを鉄板の端に寄せ、ホルモン(ブタの内蔵)を投入して、塩をまぶして炒めた。
『真穂ちゃん、こんにちわ』と言いながら、真穂ちゃんの三匹の遊び友達の男の子たちが、鉄板前にちゃっかり陣取って、ホルモン焼が焼き上がるのを待っている。
父は、『今日ブタが涙を流しながら電気ショックで屠殺されるのを見てしまったから食欲がない』と2杯目のコップ酒を煽っていた。
男の子たちと真穂ちゃんは、手を合わせてから、ガキたちとガツガツうまいなあと口々に言うのを忘れて食べた。
真穂ちゃんは、大人になって、松阪牛や米沢牛など各種ブランドのA5ランクの肉を食べてもこのホルモンを超えるおいしい肉は食べれていないと述懐する。それほど美味しかった。
斎藤家の夕ご飯は、うなぎの蒲焼だった。母親の調理するうなぎの蒲焼は、肉厚で、歯で噛み切りもぐもぐ食べるタイプである。現代のうな重(蒸して調理して舌の上でとろけるタイプ)とは調理法がちがった。真穂ちゃんにはものたりなかった。おとなになった今でも、あの時のうなぎは美味しかったとなつかしく思い出す。
❺
真穂ちゃんと三匹が何かを求めて徘徊していると学校の裏庭の鍵が閉まっていないと確認した。そして、こっそり無人の校庭に侵入した。だだっぴろい校庭をいみなく無軌道にしばらく走り回った。そして、4人は砂場で、残されたスコップを使って遊んだ。真穂ちゃんは、鉄棒を見つけると逆上がりで遊び始めた。三匹も続いた。
真穂ちゃんは、腰を軸に体をクルクル回転させた。三匹とも真穂ちゃんと同じように体をまわしていたが、真穂ちゃんがダントツにスムーズで素早い動きだった。
真穂ちゃんが滑り止めの白い粉を見つけると手にパンパンとつけてジャンプして、一番大きい鉄棒にぶら下がった。蹴上がりして遠くの景色をのぞき込んだ。真穂ちゃんは、両足を前後に振って勢いをつけて、大車輪を始めてしまった。地上のガキどもは、不安げに見上げていたが、すごい!真穂ちゃん!がんばれ!と歓声を上げ始めた。そのうち、学校の教職員たちも真穂ちゃんが鉄棒している下あたりから心配そうに見上げ始めた。
真穂ちゃんが大車輪していると、おじいちゃんが、土手で転んで用水路に落ちそうになっているのが見えた。もう一周まわって、おじいちゃんと確認できた。
『早く助けにいかないと!!』と急いで着地場所をイメージした。満点着地とはいかず、左側によろめいて、10歩前に進んで前のめりで左頬から倒れた。
『大丈夫!真穂ちゃん」と後ろからの声を無視して、おじいちゃんと叫びながら走った。そして、走った。左のほっぺたを強打していて少し痛かったが、問題なく全速力で走れた。何が起こったんだと4人の大人が付いてきて土手で川に落ちそうになっていたおじいちゃんが救われた。真穂ちゃんが救えたらヒロインになれたけど、そんなことどうでもいいことだ。父親も母親も、もう少し遅かったらどうなっていたかわからなかったと言っているので、とにかくよかったのである。
❻
夕食は、おとうさんが捌いてくれたいただき物の食用鯉の刺身とお母さんが煮てくれた豚足だった。
真穂ちゃんは、ドジョウは好物なのに、豚足は苦手だった。豚足のあの形は生きている時を想像してしまうからだった。でも、お母さんが想像を掻き立てないように工夫して調理してくれた。
真穂ちゃんは、手を合わせてお祈りしてから、その日初めて豚足を美味しく頂いた。健太郎の足かもしれないし。。。明日朝、真帆ちゃんは神社にお参りして、鯉の分までお祈りした。
真穂ちゃん❶子供時代編 @momoyoshimiID
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