第7話 女子を黙らせるお土産

彼は面白い、賢い、音楽好き。

笑いのツボ、面白いが合う。

背が高い、優しい声と話し方。

私の意見も聞いてくれる。顔も端正。


気になる所。

馬鹿話だけ。

関係性がわかる言動無し。

難しいデビットボウイ好き。

個人的なことを話さないし、聞かない。

合うと感じるから、気になる部分が目立つ。     


四時間半の長電話をして彼は北海道へ。

私は「この人のために、死んではいけない」と考えるようになり。

帰ってくるのを、少し心待ちにした。

忌野清志郎の曲超えの、四時間半の電話は、私にもインパクトはあった。

それだけ話していても飽きない。中弛みもない。

誰ともそんなに長い時間、話し続けたこともなかった。

親友の家にお泊まりでも、夕飯だのお風呂だので会話は途切れる。

結果、四時間半は記録のまま。


修学旅行後すぐに電話をくれた。

いつもと同じ昼間。

「お帰り〜。楽しかった?」

「楽しかったよ。まあ色々な」

「色々って?何があったん」

「普通に夜中まで話したり、トランプしたり。変わったことは無いよ。」

「どこが良かった?」

彼答えは摩周湖?だか、摩周湖には行けなくて残念だったか。


「相変わらずテレビは観た?」

「消灯時間までは。こっちとチャンネルの数字が違うんやで」

そこからは、またいつものような話で。

友達の話も殆ど無く。

北海道の魅力もほぼわからず。

ちょっと暗くなり始めて、そろそろ電話を切るか?になり、彼が思わぬことを言った。


「お土産あるよ」

本当に?って。平静を装って、

「ほんまに?嬉しいわ〜」と答えた。

何を買って来たか、いつ渡すかも言わずに電話は切れた。

お土産は素直に嬉しい。

話す前の感じだと、

「土産物屋なんか、ダサいし欲しい物なんか無いからバスで寝てるわ」ぐらいは言いそう。

お小遣いは貰い、家族にお菓子ぐらいは買う?

性格はそんなに尖ってないのは、段々とわかった。

お土産物屋を選んでくれたのは嬉しい。

彼が気に入りそうなオシャレな物は、当時の全国のお土産物屋には、おそらく存在しない。

物で気持ちを測りたい訳では無い。

金額で測るつもりも無いけど。

選んでくれたが嬉しく、ウキウキした。


お土産は「渡したいから会いたい」って話にもなる?

「何だろう?」を考える時間は楽しい。

夏休み会いたいとも、会えなくて寂しいとも、会おうって話も無いまま。

でもお土産なら?もしかしたら?はあるかもと。

何せ歩いて十分だし。


それ以降電話もなく。

新学期か始まった。

また会いたいなら、同じ電車に乗るしか無い。

違う電車に乗って、相手を撹乱させるような作戦は無理。

所詮この程度の私ごとき。

小学生時代の担任が書いた、通知簿のコメント通り。

「明るい、元気、素直。お喋りが多いから気をつけましょう」

今はそれに闇金と対決、パトカーを呼んだ女子、借金まみれで人を招けない家の子、超素食でも生きられる人が付いたけど。


「久しぶりやんね〜」と言ってみた。

「寂しかった」とも「会いたかった」もなく「うん、久しぶり」だけ。

いつもの吊り革に掴まる。

電車が動き出したら彼がカバンをゴソゴソして、5センチ角ぐらいの小さな袋を取り出して、

「ほい」って私に差し出した。

ぶっきらぼうな人は嫌いでは無い。

が、この時は何か説明は欲しくて。

「土産物屋には良い物がなかった」とも、「僕は気に入ったから」とも、「前田さんが気に入りそうだから」もなく。

受け取ったら中には何も入ってないか?入れ忘れたぐらいの重さ。

「見ていい?」って中を見た。

そこには約五ミリサイズの、極小の木彫りの熊のような物が、寂しそうにポツンと一個だけ入っていた。

大きな木彫りを作る時に出る?三角刀で彫った時に出る?ほぼ三角錐の形。

木屑か?

両側に目らしき、黒い点が2つチョンチョンと付いてるだけ。

「可愛い」と思った。

気にはいった。

「ありがとう」

が、「何コレ?」

人生で一番解釈が難しいプレゼント、貰い物ランキングでは圧倒的に一位。

果たしてコレは、何を意味するのか?


当時お土産物は、大した物はなかった。

ダサいし必要もなく、欲しくもなかったキーホルダーでさえなく。

欲しく無いぬいぐるみでも、マリモでも、ハッカ油でも、熊注意の看板でも、ペナントでさえなく。

ゴツい木彫りの熊でも。

ずっと一番謎だったお土産物の一位が、あの大きな木彫りの熊。

友達の家や、テレビドラマ画面の床の間に飾られてる不思議な物で。

でもあのデカい熊なら

「持って帰るのが、大変?」

「高過ぎない?お金を使わせた?」って。

が、彼が私のためにしてくれた気持ちだけは、ちゃんと伝わる。


が、これはどうなの?って。

「おじいちゃんにもおばあちゃんにも、両親にも近所の人にも配って、残ったからお前に一個あげる」感が強い。

買い過ぎて余ったからくれた?ような物。

会社で「お土産で〜す」って、皆んなの机に置く一個五十円のお菓子と、立ち位置は似てるかそれ以下?

十年後北海道で一個五円、まとめて十個で百円で、レジ脇にあった。

たくさんお土産を買った人には「オマケにしとくな」って、タダで配ってた。

コレはそんな感じの物だったと再確認。


好きな女の子、将来的には付き合いたい女子に、買って渡す物か?を悩みまくり。

四時間半の電話は?

お土産で喜んだ私は馬鹿?

会いに来て渡してくれたら。

「気に入ったからコレを買ったの?」と聞けた。

満員電車の中では、出してみることも出来ない。

彼は「気に入った?」も聞かなかったか。


学校に着いて出してみた。

机に置いても超小さい。

隣の子は何かすらわからないから、移動してきた。

「お土産で貰ったんやけど」って言うと、彼女は横から見て「何?コレ?ゴミ?」って聞いた。

削りカスならゴミはゴミか?

「誰に貰ったん?」

また説明は難しい。

「知り合いが北海道へ行って、お土産にくれた」

「たくさん買って、余ったからくれたんやなぁ…」と彼女も言った


彼らしいと言えば彼らしい品物。

彼はやっぱり少し変わってた。

彼の好きや面白いを、理解しつつある私にはそれはわかる。

今朝もお喋りは楽しかった。

久しぶりに顔も見られて文句は無い。

長電話しても距離感は近づくかず、変わらない。

「お土産やった〜!」ってなった私は?

喜んでる場合じゃない。

お土産を買うは、少しは他の人とは違うと思ってるか?と考えたけど。

むしろこのお土産は

「私は知り合いの中の一人に過ぎない」って、言われた気がした。


吹けば飛ぶようなって表現がある。

この熊は吹かなくても飛ぶ。

教科書をゆっくり置いても飛ぶ。

ノートをめくっただけで落下する。

幸いすぐに見つかった。

無くなりそうで、仕方なくペンケースに入れた。

ペンケースの中はシャーペンの芯とかで汚れていて、しばらくして熊は薄黒くなり。

家で保管するしかなかった。


お土産を貰って数日後、親友たちを召集して、「この人は何者か?会議」を開催。

食堂だと人に聞かれる。

早く食べて人がいない教室へ。

グループで3人は「男子はわからない」とか「次が体育だから無理」とかで不在。

メンバーは私込み四人。

親友の君子。部活の当番を変わって貰って参戦。

同じ沿線で元彼は見てる。

この人は知らない。

まだ彼氏はおらず。


恵美子は高校時代、ずっと結局彼氏は出来ず。

子供のように小さくて可愛い。


夏子は真面目。

可愛いからよく、声をかけられて。

議題の人と同じ男子校の、高3男子とは話す。お兄ちゃんと呼んでた。

付き合って無いと彼女は思ってたけど。

私が借りたかった、JDサリンジャーの「ライ麦畑でつかまえて」を、お兄ちゃんから、「面白いから読んで」と借りてた。

私よりむしろ、付き合ってる感はあるような関係。

四人の馬鹿が集まった。


まず恵美子が「その人カッコ良いん?写真とか無いの?」って。

当時は彼氏と写真は撮らない。

彼氏の写真を、持ってる子はいた。


「皆んながカッコ良いって言う、感じじゃない。背は高い。何より面白い…」と、私が彼とのこれまでを話し。

「お土産は貰ったけど、コレなんよ〜」と、小さい小さい熊?を見せた。

一同、シーンとなった。

お喋りな女子高校生たちを、黙らせるこのお土産。


恵美子は、思ったことをそのまま口に出すタイプ。「何コレ?ゴミ?」

やっぱりゴミ扱い。

「こんなん、お土産って言える?」

お金持ちのお嬢様には、よりゴミか。

夏子は「お土産を貰うは、良かったけどなぁ…」って。


電話番号を聞かれて、長電話したあたりまでは、彼女らも盛り上がってた。

でも休みには会ってないし、私のこともほぼ聞かない。

夏子は受験生のお兄ちゃんって、人がいるから、「その人文系?理系?」って。

私は「知らない」としか答られず。

「話題にないし、どっちかは知らん。雰囲気は文系?何の科目が好き、得意も知らない…」

皆んなは揃って「はぁー」ってため息をつき。

親友の君子がまとめるように、

「それは、ただ朝一緒に行くだけの人やな、今のところ」と言ったら、他の2人もうなづいた。

やっぱり。

話の内容から私が彼を好きなのは、皆んなはわかってた。

君子は続けて

「でも声もかけてきた。電話番号を聞いて長電話もした。お土産もこんなんやけど買って来た。少なくとも嫌いじゃない。しばらく様子みたら?」

恵美子も「望みナシでは無い。言い出せないだけかも?知れんよ」と慰めてくれて。

夏子は例のお兄ちゃんがいるから、学校には詳しい。

「学校は勉強だけの人が多い。真面目な人しかいない。彼女がいる人も聞いたことが無いみたい。まだこれからかもよ?」と。


三人の結論は、様子見。

私も納得。

毎朝の会話は楽しい。

いつも笑顔にして笑わせてくれる。

今はその関係を壊したくない。

変に「私のことをどう思ってるの?」とか質問したら、面倒くさがられて「友達やめるわ」とか言い出さないとも限らない。

女子高生の共通認識では、この人は彼氏では無い。友達。


それで私はどうする?

友達では嫌なら、明日から一緒に行かない選択も。

本音はこの人と一緒にいたい。

見込みが全く無い訳では無さそう。

彼に彼女が出来たら、もし今彼女がいたら悲しくてショックだけど。

私が感じる限りでは他にそんな人は、今は居ないよう。


今は一緒にいたい。

それではイヤになる時が、来るかもしれない。

その時にはまた考えるしかない。

自分の毎日が大変な今、面倒な恋愛をする気はなく。

が、一緒にいたい、会いたいんだから、もう勝手に知らないうちに彼を好きになってしまったから、仕方がない。


自分で選んで、はい今から恋愛します!って選べたら。

出会う時期を選べたらなら…。

それは誰にとっても無理。

毎日が死にたくなるぐらい大変で、彼氏が欲しいとは思わず。

前の彼氏に振られた直後。


でも、いつの間にか好きになってしまっているは、自分でもどうすることも出来ない。

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