第4話 ラジオとダッシュとギャップ萌え
駅で偶然話しかけて来た男子。
当時の沿線や街中でも、同年代ではかなり目立つ。
原宿や渋谷ならモデルのスカウトが、とりあえず目に留めそうな外見と身長。
雰囲気も大人っぽい。
後に見た私服姿はモデルのよう。
進学校の生徒には見えない。
不思議なオーラと「俺に声かけるな!」な雰囲気も。
私は彼を「お姉エ」と、間違えかけたぐらい話すと優しい。
ちょっと変わってはいる。
学校にはいず欲しかった、洋楽の話が出来そうな人。
予想外で印象は180度違った。
彼が私を見かけてたら、翌朝同じ時間に行かないと避けてるように。
避ける嫌な要素は全くなく。
普通に友達として話せる。
だから彼が居る時間に駅へ行った。
いつもの定位置に彼は立っていた。
周りの通勤客も同じ。
途中の駅で誰も座れることは無く。
全員吊り革に掴まれるか、無理なぐらいの混雑具合。
彼に声をかけて横にいた。
割り込み?横入り?だけど、並んでた人たちは寛容で。
「おはよう」って声をかけた。
約束もしていない。
「あ、おはよう」って、少し顔だけは、こっちに向けて返事をした。
眠そうに見えたから、
「眠い?昨日は遅くまで起きてた?」
「いや〜でも、寝たのは2時かなぁ」とか。
この後はほぼ毎日交わす会話。
初めての日は世間話はした。
それ以降たくさん話した。
が、いわゆる世間話や、カップルがしそうな会話をした記憶はほぼない。
電車が来て先に私が端から二番目の吊り革を持つと、角の吊り革を彼が持つ。
私は右手、彼は左手。
混雑してても距離は少し離れていた。
肩がぶつかったことも無い。
周りから守ってくれているようでも、私から距離を置いているようでも。
定位置に収まると、彼が話し出した。
「昨日、夜ラジオ聴いた?」
「ちょっとだけ。十時までテレビを観てたかなぁ…」
「何観てたん?」
「見ごろ食べごろを観て、ドラマを観た」
私の実感では彼は、むしろテレビっ子、ラジオ好き。
音楽の話、デビット・ボウイのどこが好きか?の話はした。
が、それよりたくさん話したのは、テレビ番組の内容や、面白いCM、面白いラジオの話。
「やっぱり観てた?見ごろは面白いな」
見ごろとは、「見ごろ食べごろ笑いごろ」のタイトルのお笑い番組。
伊東四郎と小松政夫が面白くて、女子中高生にも人気があった。
春にレギュラーのキャンディーズが解散して、番組名は変わっても同じ路線。
てんぷくトリオから好きだった、伊東四郎。
関東系のコメディアンでは1番?
電線マン。電線音頭も好き。ベンジャミン伊東!
小松政夫はしらけ鳥。しらけた時には、女子中高生も歌っていた。
「伊東四郎と小松政夫が、面白いし好きだからほぼ毎週観てる」
「面白いやんなぁ?僕も大好き。昨日のやり取りも、アソコが面白かった…」と、昨日の番組の話を怒涛のように話し出して。
頭が良いからか?メモでも取ってた?と感じるぐらい、やり取りやフレーズまで覚えている。
言葉には敏感な人ではあった。
「あの時言ってたセリフに合わせた、トボけた表情が最高に良かった」とか、番組を細かく分析する。
蘊蓄は垂れない。
彼の話は面白くて。
話が面白かったことだけは、鮮明に覚えてて。
一緒だとずっと笑顔でいられたことは確か。
私はたまに突っ込んだり、共感したり。
「あーわかるわ〜」って。
ほぼ彼が話して。
何がどこがどう面白いかって。
車内は通勤客が殆ど。
他に話してる人は無く。
彼が話すのが七割超え。
車内の人もかなり聞いたハズ。
そして多分「あの二人はどう言う関係?」と不思議だったかも。
普通のカップルがする話では、なかったから。
男女で一緒に通学する人も、少なかった。
相変わらず彼は、真っ直ぐ前を向いて、話す。
私が様子を知りたくて、吊り革を持つお互いの腕越しに、伺うように顔を向けて彼を見ても、向こうはこっちは見ない。
恥ずかしかったのか、話に集中してたのか、私に興味がなかったのか?
ターミナルに着くと歩きながら話す。
定位置は彼が私の右。
バス停に着いても彼は話し続けている。
途中までバスも一緒。
が、一瞬迷った。
何故ならそのバス停は、彼の学校の男子だけ。
同じ制服の中高生男子が二十人はいる。
威圧感は強い。
通勤客は少ない時間。
深くは考えないタイプの私でも、
「ここに女子一人で混ざるのか?」って、立ち止まる感じ。
彼は周りを気にしない。
そのまま話してバス停に並ぶから、付いて行くしかない。
隣のバス停の先頭には、元彼がいるのも見えた。
「ま、いいか」で、男子だらけの中に。
彼は気にせずにずっと話しかけてくる。
バスに乗っても周りは同じ。
途中OLさんが乗ってくることも、たまにはあった。
が、ほぼ彼の学校のスクールバス状態。
遅刻ギリギリだから来たバスに乗って、また吊り革で隣同士。
私が降りる時には、車内はかなり混雑。前のバス停で、
「次やから」って言うと彼が人を掻き分けて移動してくれ、たどり着いたら降りるバス停で。
「じゃあ」って。
当時は必需品だった、時計を見たらギリギリ。
そのバスには他の学生が少ない理由が。
路線は私が降りだ後、大通りを曲がる。
私が降りる場所も違う。
大通りをニ回横断しないと、学校へ向かえない場所。
横断歩道を待つだけで、余分に三分近くロス。
その路線は本数も少なく間隔も長い。
各駅停車で毎回止まり、時間も余分にかかる。5分は違う。
ずっと乗った路線は、バスが途中で満員になると途中は通過。
降りる人のいるバス停にだけ止まる。
所用時間も短い。
両方の理由で、ギリギリの電車に乗ると、降りたらダッシュ。
バス停から教室までは、今までは歩いて10分ぐらい。
必死に走っても、時々は遅刻する。
わりといい加減な性格だけど、それまで遅刻したことは無い。
彼と一緒に行くなら、出来たら電車は1本早くないと毎日必死で走ることに。
知り合ったばかりでは、そんなことも言い出せず。
彼氏でも無い。
ずっと言い出せず。
彼は毎日ダッシュも遅刻も知らないまま。
嫌なら毎朝一緒に行かない。
私なりの意思表示ではあったけど。
かなり勧められたから、火曜日夜は例の「所ジョージのオールナイトニッポン」を聴いてみた。
私も所ジョージの面白さにハマった。
この時期に、所さんに注目した彼は、やはり慧眼?
水曜日の朝は、必ず前夜の「オールナイトニッポン」の話。
若くてよりいい加減な感じで、とボケいて肩の力は入ってたのか、抜けてたのかはわからないけど面白い。
お互いに音楽は好きだから、お気に入りはやっぱり替え歌のコーナー。
ハガキ職人さんも、面白さを競って内容を考えて書いてた。
所さんは1人でも面白いけど、人と連むとまた面白い。
替え歌コーナーは人気バンド前の、アルフィーの坂崎幸之助がギターも弾くし、お喋りも一緒にする。
ギターは当時から上手かった。
坂崎幸之助は1人で話しても面白い。
ギターが弾けるお笑い芸人かと。
2人で即興で曲作りもしてたから、やっぱり音楽?
この後には話芸のために、初代の林家三平に師事した。
曲も作れて演奏も上手い。
色々な楽器も弾ける人で。
ドラムもベースもピアノも弾ける。シタールまで。
世界でもホール・マッカートニーか?ぐらい、出来る楽器の数は多い。
管楽器だけはダメだったらしく。
挑戦するだけでも普通じゃない。
物真似も上手い。
差押えの赤い紙に圧迫されてた私を、所ジョージと坂崎幸之助は、笑わせてくれた。
家にいる時間を楽しくしてくれた。
二人はリスナーのハガキを、より面白くするために色々変える。
その会話も面白い。
毎週水曜の朝は二人とも寝不足で。
朝の挨拶は、
「おはよう。眠いね〜でも昨日も面白かったね〜」に。
ラジオが三時まで。
睡眠時間は三時間ちょっと。
6時半には起きないと遅刻。
彼も眠かっただろう。
高校2年で勉強は大丈夫か?は考えた。
彼は変わらず昨日の内容を、また面白く解説?分析してくれたから、毎週二度楽しめた。
話は面白いけど、ドンドンあちこちに脱線するからいつも話は途中で終わる。
沈黙は無く、話題を考えることもなく。
聞いてるだけで、充分に楽しかった。
夏休みまでのひと月ちょっと。毎日。
相変わらず「帰りも駅で待ってる」とも言わない。
最初の一週間は
「私に興味があったから話しかけて来た?」と少しは考えた。
が、変わりなく。
週末どうしたかも聞かない。
テレビの漫才は観たか?は聞いたけど。
私が何が好きかも聞かない。
自分が何をしていたかも話さない。
髪型を誰でもわかるレベルで、変えても反応せず。
全体にウェーブに変えても、見て驚いた感じもなく。
変わったヘアピンや、ゴムも無反応。
結果「やっぱりこの人は私には全く興味が無い」を確認。
乙女の努力も虚しい。
偶然に帰りの電車が同じは三回ぐらい。
でも車両が違う。
駅で降りたら気付く。
帰りに偶然会っても、踏み切りを渡り、私は右に彼は真っ直ぐに行く、分岐点で立ち話するだけ。
踏み切り脇だから、通る人の視線は痛く。
「邪魔だから、他へ行けば?」な。
踏み切りはカンカン音はする。
頻繁に来る電車もうるさい。
飛び込みたくなる、踏み切り近くはイヤだった。
通学路から一歩もはみ出さない感じも寂しい。
三十歩ぐらい歩けば本屋があったし、近くに公園もあった。
が、移動することも無く。
毎朝一緒に通学した。
横並びだけど、彼はほぼ私を見ない。
前を向いたまま。
話すと怖くない。
人の嫌いな部分を指摘はしない。
良かったや面白い部分が話題の大半。
だから彼と一緒の、朝の五十分弱はずっと笑顔でいられた。
笑わせてくれる人。
人は見かけによらない。
見た目と中身には、ギャップが。
ギャップ萌え?
面白いや楽しいや、好きの感じ方も合う。デビット、ボウイを除いて。
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