第6話 投げ付けた言葉が!!

 そこには止まらない涙を拭おうともしないひとが居た。


「『人殺し!! お前が代わりに死ね!!』 私があの日、彼に投げつけた言葉が!! 言葉が!!」

 そう叫んで顔を覆い、一瞬嗚咽を上げかけた彼女は立ち上がって引出しから通帳を取り出した。


「お願いします!! 彼の所へ私を連れていって下さい!! 今こそ!!このお金を返させて下さい!!」



 ◇◇◇◇◇◇


「4年前までは夫の位牌とお仏壇がございました」


 病院に向かう車中で早苗さんは話してくれた。


「でも、もう一緒には暮らせないかなと、お義母様にお返しいたしました……憎くて憎くてたまらなかった橋本さんの文字が、優しさが……毎月手元に届くたびに、最初は辛かったはずなのに、長い年月の中で、たまらなく愛おしくなったのです。 その想いを込めて編み始めたセーター達も渡せなくて……作品としてネットで紹介したのをきっかけに、今のお仕事ができる様になったのです。」


 僕は少しためらわれたが、彼からもらったメモを早苗さんに見せたら、その震えた文字に彼女は大泣きした。

「彼まで死んでしまったら!!私どうしよう!!」


 そんな彼女が紙袋に詰めて来たのは、『Shu-』って手作りのタグが付いたブランケットやセーター達で……



 早苗さんと修ちゃんを引き合わせた後、僕と妻は病室の間仕切りカーテンの向こうで、抱き合って盛大にもらい泣きした。



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