第15章「最後の証人」

教会跡にて


瓦礫の残る旧教会跡。

そこは10年以上前、火災で一部が焼け落ちたまま放置されていた。

そして今、そこにぽつんと座っていたのは──柏木玲奈だった。


小さなロウソクの火が、彼女の静かな表情を照らしている。


「……来てくれたんだね、美咲ちゃん。翔太くんも」


玲奈の声は、まるで懺悔のように震えていた。



玲奈の告白


玲奈は語り始めた。

あのゼミ時代、“遥と過ごした数日間”のことを──


「遥ちゃんはね、私にこう言ったの。

“優しさの裏に、本当の感情はあると思う?”って」


遥は、玲奈の過去に深く踏み込んできた。

家族の問題。恋人の裏切り。自傷の痕。

全てを暴いてから、こう囁いたのだ。


「私があなたを壊してあげる。そのほうが、楽になる」


玲奈は震えた。

けれどその夜──唯一、美咲だけが何も聞かずに、ただ彼女の手を握ってくれた。


「あの時、美咲ちゃんがいなければ、私は……もうここにいなかった」


そして、遥が口にした“本音”を思い出す。


「私だって、誰かに壊してほしかった」



翔太の疑念


その話を聞きながら、翔太は過去に思いを巡らせていた。


「遥は……本当はずっと、助けを求めてたんじゃないか?」


玲奈がうなずく。


「でも、彼女が選んだのは“支配”だった。

優しさを与える側じゃなく、“奪う側”に回ることでしか、保てなかったの」


「それが彼女の“やさしさの限界”だったんだね……」



美咲の覚悟


「玲奈ちゃん。最後にひとつ、教えて。

遥は、今どこにいるの?」


玲奈は静かに答えた。


「……彼女、私に“最後の実験”をやらせるって言った。

もし私が“誰かを助ける”選択をしたら、その瞬間に終わりにすると──」


「誰かを、助ける……?」


「私じゃない。

彼女が本当に助けてほしかった“誰か”が、まだこの町にいるの」


その時、美咲の携帯が鳴る。


非通知の番号。

だが、聞き覚えのある声が流れた。


「美咲──“私を見つけて”。

お願い、最後くらい……優しくしてよ……」


遥の声だった。

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