第1章「最初の違和感」

藤咲美咲が“最初の違和感”に気づいたのは、遥と出会って三日後のことだった。


その日、美咲はいつものように職場に出勤し、部署の先輩であり親友でもある久保田沙織とランチの約束をしていた。

いつもの店、いつもの時間。携帯には、前日の夜に送ったLINEの既読もついていた。


しかし──


「ごめん、今日ちょっと無理になったから」


そうだけ言い残して、沙織は会釈もせずに通り過ぎていった。

まるで、美咲と目を合わせたくないように。


(……なんか怒ってる? でも思い当たることなんて……)


仕事中もずっと気になっていたが、結局その日はそれ以上何も起きなかった。

ただ、周囲の同僚の視線が微妙に冷たく感じるのは、気のせいではなかった。


帰宅後、ポストを開けると、1通の手紙が入っていた。差出人不明の茶封筒。

開いてみると、中にはワープロ文字でこう記されていた。


「彼女(遥)は、あなたの居場所を壊そうとしている。気をつけて」


思わず笑ってしまった。どこかのストーカーか、嫌がらせだと思った。

だが、ふと頭に浮かんだのは──あの完璧な隣人、桐谷遥の顔だった。


(……まさか、ね)


夜、窓の外を見ると、遥の部屋のカーテンがわずかに揺れていた。

その隙間から、一瞬だけ、美咲と目が合った──気がした。


遥は、柔らかく微笑んでいた。

けれどその笑顔には、どこか“裏側”が透けて見える気がして、美咲は背筋がぞくりと冷たくなった。

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