棺桶を背負いし旅人ジュリア

ennger

棺桶×旅人

 廃れたスラム街、1人大きな棺桶を背負った女シスターが夜道を歩く。

 人は寝静まり帰り静かである。あるボロボロの教会壁に背を向けて彼女は言葉を発する。


「依頼は?」


「・・・・・・子供たちを保護と称して奴隷労働として雇い入れいている『プリズン』という奴隷組織の撲滅を・・・どうか彼等を・・」


「まあ、なんだ。できることはやる。約束できるのは今日でその組織は無くなるってことだ。」


 彼女は再び棺桶を背負ったままその場を立ち去って行く。






























「おらっ!飯が欲しいならとっとと働け働け!」


 ゲシッ!と少年の背中を蹴り飛ばし、荷運び中であった荷物が崩れ落ちてしまう。


「お前らみたいな奴にスキルを鑑定してくれる奴なんてこの街にはいやしねえ!

 帝国や王国のように全国民に対してそんな慈善活動してくれるお優しい国じゃねえーからよー!」


「アッハッハッハッハっ!!おいおい!よせよ!下手に現実教えたらコイツらのやる気無くすだろうがよぉ!」


 ゴロツキの男や女はそんな辛くも働く子供たちを見て哀れみなどなく、ただ中傷して笑うのみ。


 国の体勢によって、スキル鑑定という儀式を通過できない者たちは働き手がないとされるほど、この世界はスキルや先天的な能力によって優劣が付けられるようになっている。

 だが、必ずしも鑑定を施してもらえる訳ではない。国や地域によっては、位が高い者以外には鑑定せず、一奴隷平民として重労働を敢えて敷いている国家も存在する。


 ここにいる子供たちも例外ではない。

 スラム街における子供は弱って行く大人より、需要性が高く、大人より非力であり、スキルが鑑定されないため発生しない。その影響により子供の拉致被害は増加していた。


「なんで・・・」


「ママ・・・・」


 そんな嘆き悲しむ少女と少年の背後に先ほど蹴り飛ばした男がいた。


「なぁーに甘えてんだぁ!」


 男の拳が少女へ向かうその瞬間


 ドッガッシャァァァン!!!と壁が破壊される音が鳴り響く。

 その音に感化されたのか、拳が止まる。そして男たち子供含めた面々が破壊された壁からその姿目視する。


「・・・・・・・さてと、お仕事開始か。」


 女1人であり、見た目共々悪くない容姿をしている。胸の大きさや肌は露出こそないが、細く美しい脚に腕、そして綺麗な銀と黒の2色のショートヘアー。

 だが、その魅力以前にただの拳で壁を突き破った力という恐怖に支配されている。それゆえに誰も動けない。


 そしてコツコツと歩き、周りを物色する。


「流石に表には居ねえか。」


「っ!なっ、何用だぁ!?」


 男が驚きのあまり、前のめりに現れた女性へと問い詰める。

 しかし毅然としている彼女は、そんな男など眼中にはない。ただ周りを観察する。元締めがあるとされる隠し部屋を探す。


「無視すんじゃあ!ねぇぇぇ!」


 とうとう我慢できなくなった男たちは一斉に1人の掛け声から襲いかかる。


「姉ちゃん!あぶない!」


 1人の少年は本能的に叫ぶ。


「ふっ!!」


 女は周囲を回転するように蹴った。その異常なまでの風圧と触れる者たちを一瞬でひしゃげさせる圧殺力、そのたった一撃で男たちは周囲へと転げ回る。そこには悲鳴すら上がらない。


 ただ異常なまでの静かさが漂う。


「・・・・・・・あそこか。」


 彼女は倒れている男たちの流れる血の流れを辿り、隙間からポツポツと垂れているであろう箇所を発見する。

 そしてその場所へと向かい、指を地面へめり込ませ、一気に上へとべりべりっ!と剥がしたのだ。


「さて、と。」


 彼女は再び棺桶を背負い、狭く辛い冷え込む地下道を潜って行く。

 そんな子供達2人はただ見送ることしかできなかった。しかし心にはもひかしたらこの人なら。という希望を抱き、通りすがりの僧侶へ祈る。


 この悲しみが終わりますように。


 そんなことはいざ知らず、ボスを探す彼女『ジュリア』は棺桶に気を遣いながら、暗く狭い道を進んでいく。やがて視線の先に光が差し込む。その光の先を潜ると。


「ここか。」


 辺りには過労で倒れている子供、いくつかの部屋から女性と男性の交わる声、そして泣き喚く子供の声、笑い声とさまざまな事柄が連続して起きている。


「ぶっ殺すには丁度いいってことか。」


 ガチャリとドアが開く。


「あっ?」


 出てきた大男と娼婦、シスターらしき服装をした彼女を見てただ疑問を抱く。

 その次の瞬間、彼の視界は暗く何も見えなくなる。

 声を投げかけようとしたその刹那、彼女の鋭い蹴りが男の顔を吹き飛ばしていたからである。


「へ?」


 娼婦は隣で血飛沫を上げる大男を二度見する。そして徐々に現実を目視する。


「あっ・・・あああっ!いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 叫び声が部屋を響き渡る。


「いい感じにザクロったな。」


 バタン!バタン!と部屋から多くの男たちが現れる。


「うげっ!なんだ!」


「テメェがやりやがったのか!?」


 ジュリアはワーワーと叫ぶ男たちに中指を立て、ただ無言で立ち尽くす。


「上等だぁぁぁぁぁ!」


「ぶっころぉせぇぇぇぇ!」


「しっ!」


 ジュリアはその辺に転がっていた小石を拾っては、自慢の力で弾丸のように全方位へ発射する。

 あまりの速度と威力に男たちの身体中を貫通していく。中には頭を撃ち抜かれ、絶命するものも後を経たない。

 それだけでは終わらない。


「っ!」


 ジュリアの縮地によって、目の前にいる3人の男たちへと急接近し、横へ一閃、手刀を入れ込んだ。もちろん、彼女の身体能力が引き起こす手刀は最早切れ味の鋭い剣と変わらない。


 胴体や頭などをバッサリと真っ二つにされる。

 ボトボトとバラバラの死体が転がる。


「なっ、」


「んだぁよぉぉぉ!」


 ニヤッ。狂気の狩人の笑みを浮かべた彼女へ恐怖する一同である。だがそんな隙を彼女は逃さない。

 作業台と思わしきかなり長いテーブルをバキバキと片手で瞬時に掴み、一気に旋風が如く振り回す。


「っっっぁぁぁあぁぁぁあぁぁ!!」


「ぶひゃぁぁぁぁあぁぁぁ!」


 突破と振り回された机によってミンチになっていく。

 そう1人だけを敢えて残して。


「あ、あああああ、た、だのむ!」


 机をバリッと真っ二つに片手で折った彼女は1人生かした男へと向き直る。

 その目は人としての視線はない。怒りも悲しみもない。ただそこにいたから邪魔だったからゴミの一部として処理する作業員のような感覚である。


「だ、だのむ!なんでもはなず!いのぢだげわ!」


 そして近くの棺桶にポトリと血が垂れる。


「!!」


 ジュリアは棺桶に着いた血を急いで拭き取ろうと服でゴシゴシと磨く。だが取れず付着してしまう。


「・・・・・テメェら・・・・」


 彼女は怒りの表情で振り返る。


「ふぇ!!あ、ああ!あばっ!」


 彼女の掌底によって敢えて生かした男の上半身を破裂させ、ぐちゃぐちゃに吹き飛ばしてしまった。


「くそっ!くそっ!」


 何度も何度も拭き取るが取れず、ただ茫然と恐怖に怯えていた娼婦が1つの小瓶を彼女へ恐る恐る近づける。


「あ?」


「あ、あの・・こ、これっ!に、匂い消しとで使ってた薬剤です!漂白効果もあるので・・・」


 これは彼女なりの必死の命乞いであった。このまま目の前の怪物が怒りのあまり当たりをぐしゃぐしゃにしては敵わないため。


「・・・・」


 ひょいと受け取り、棺桶に液体を垂らして拭き取る。

 すると、見事に綺麗に拭き取れていき、一安心を得る。そして落ち着いたのか、再び棺桶を背負い、彼女は奥の大扉へ向かっていく。


「・・・・・・はぁぁぁぁぁ・・・・な、んなよ・・」


 怪物が去っていくと一安心したのか、その場で弱々しく座り込んでしまう。

 これを期に彼女は娼婦から足を洗い、真っ当な働き先で余生を過ごしていくこととなった。
























 バタン!と開かれる。


「んだ?騒がしいとは思ったが・・・何者だ?」


 痩せ細った男が1人、子供たちを下敷きに上れ座り込んでいた。

 じゃらじゃらと魔道具や宝飾を身につけており、明らかにボスであると主張しているようだ。


「依頼で殺しに来ただけだ。」


「へぇ・・バカなのか、それともマジもんか・・・・にしても、エロいなぁ・・お前・・その凛々しさを崩して、ヒィヒィと泣き喚く雌豚に仕上げてやりたくなったぜ。」


「はあ・・・どいつもこいつも・・私を飼えるのは彼だけなんだけど・・・・まあ力の差ぐらいは感じられないバカなのは間違いねえな。」


「コイツは面白い!!」


 すると棺桶がカタカタと揺れる。

 今まで静かであった筈の何かが蠢く。流石の人攫いのボスもその異様な光景に黙り込む。


「大丈夫大丈夫。私なら大丈夫。アイツぐらい余裕だって。貴方が力を使わなくていい。休んでおくれ。」


 先ほどまでオラオラと殺気全開だった彼女はいない。ただ1人優しく諭す。その姿は本当の僧侶のような温かさが宿っている。

 そしてその棺桶は動きを少しずつ少しずつ停止していく。


「よしよし。すまねえな。好き放題言われてんのがムカついたんだな。

 ごめんよ。とっとと消すから待っててくれ。」


 さてと。と小言を呟き、ゆっくりと棺桶を下ろして改めて目の前の敵へと振り返る。


「はん!なんなのかしらな」


 彼女は宣言通り即座に動いていた。鋭い蹴り敵の顔を捉えようとしたその時


「はっ!」


 バッキィぃぃぃンンッッ!と強く何かに弾かれた。


「舐めんな!そんなことだろうと思ったぜ!この魔道具『イージス』が俺を守ってんだよ!

 まあ、劣化版で本物には及ばねえが、打撃とかを防ぐにはもってこいだな。」


 ニヤニヤと一撃を回避した余裕が出てきたのか、今度は指輪の魔道具を起動させた。


「今度はコイツ!炎の精霊を暴走させた『サラマンドラ』の出番だぜ!

 指輪の持ち主以外燃やし尽くす不良品だが、テメェみたいな勘違い野郎を燃やすには丁度良いんだよ!」


「・・・・・・」


 彼女は魔法生命体へ目掛けて、拳を突き出す。


「きかね!ぇえ・・・・」


 目を疑った。魔法生命体は原則魔法によるダメージ以外受け付けないが、彼女の拳は『サラマンドラ』の身体へ拳で大穴を空けていた。


「消えろ。」


 そしてそのまま踵を頭上まで持ち上げ、そのまま『サラマンドラ』の頭へと目掛けて振り下ろす。

 ザッシュ!と一瞬で消されてしまった。


「は?・・・・・・・」


 男は現実を受け入れられなかった。


「さて、そのめんどくさい盾をだな。」


 彼女はメキメキと更に強く拳を握る。そして縮地による急接近で男の目の前へと再び現れた。

 そして先ほどの弾かれた音とは違い、今度はボコっ!と何かが凹む音がした。


「流石に一撃とはいかねぇが・・・おらよっ!」


 今度は空いていた左拳で再度撃ち貫く。

 その拳はそのまま間抜けな顔をした男の顔面を捉える。


「弾けろ、ゴミ。」


 パァッッッッッン!と弾け飛んでいく頭部、身体は遅れてその場へと倒れ込む。


「こんなもんか。あとは民兵に連絡させて終わりか。」


 パンパンと手を払う。


「報告しに行くか。」


 彼女は子供たちを背にして1人、依頼主の元へと報告しに向かっていく。

 彼女が通る跡には死体が転がっている。囚われの子供や過労や衰弱で倒れる子供たちは、何故かその僧侶へ感謝の意を込めて視線を送るのと同時にへなりと再び倒れてしまう。



















「今回はこれで路銀稼ぎにもなったし、相当な手配犯でもあった訳だ。いやーー、仕事の後の飯は美味い・・・・あの時、反応してくれて、ありがとう。嬉しかった。」


 彼女は何も動かない棺桶へ感謝を照れながら独り伝える。

 宿には泊まらず、街外れの山へ棺桶と2人で野宿をして過ごしていた。


「でも出てきても困るからな!私だと止めらんねえからさ!まあなるべく私も気を付けて行動するからさ。」


 棺桶を優しくさすり、どこか遠い目をする。


 彼女、ジュリアは棺桶と旅をする。行き着く先は一体?彼女は終着地を目指しているのか?はたまたは、地獄の動乱の道を歩もうとしているのか?

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