第22話
船着き場に着いた月詠と冬鬼は雪鬼を探した。
ギリギリ出港に間に合ったようだ。
雪鬼は荷物を積んでいるところである。
「大荷物だな」
冬鬼は驚く。
「海景さんに必要そうな物を見繕っていたら、こんなに大荷物になってしまいました。これでも選別したんですけどね」
ハハッと笑う雪鬼だ。
「雪鬼さん、先生のこと、よろしくお願いします」
月詠は海景の事を雪鬼に頼む。
「分かりました、任せてください。私は諦めが悪いので、何度振られても立ち上がりますので」
雪鬼はやる気満々の表情を月詠に見せた。
「頼むから度を越すなよ。海景先生が本当に嫌がったら、ちゃんと一旦距離を置くなどしてくれ」
冬鬼は雪鬼が海景のストーカーと化してしまわないか心配である。
若干、すでに行動がストーカー気味だ。
「分かっています」
雪鬼も頷いている。
しかし、鬼は元々、独占欲が強く、自分のものにしたい女性は監禁してでも物にしようという気持ちが本能的にある。
それをどう理性で押さえつけられるかが重要だ。
雪鬼は節度を持った鬼であると冬鬼にもよく分かっていた。
この男に限って本能に負けるなんてことはないはずだ。多分。
「彼女を不快にさせる事はしたくは有りません。怖がられるほどであれば一旦戻ってくるので、私が戻らなければ先生は私に脈ありだと思ってください」
「不安しかないな」
言葉ではそう言うが、雪鬼のテンションは普段とは全く違っている。
見るからに浮かれていた。
海景に会いに行くのが、本当に楽しみで仕方がない様子である。
本当にちゃんと線引きできるのか、やはり心配だ。
しかし、もう船は出港の時間である。
「冬鬼様、行ってまいります!」
雪鬼は意気揚々と船に乗って海景の元に向かうのだった。
月詠と冬鬼は手を振って見送った。
定期的に視察を送った方がいいかもしれないなと、思う冬鬼だった。
その夜、家に帰った月詠は夕食を終えると、お茶会に疲れてしまったようで、ソファで少し話をしている間に眠ってしまった。
お茶会の話や、雪鬼の話をしていたのだが、急に肩に頭を寄せられ、冬鬼はびっくりした。
月詠も俺と同じ気持ちなのでは!
そう、冬鬼は胸を高鳴らせたが、返答はなく、スヤスヤと寝息が聞こえた。
「月詠様は寝てしまったようですね」
洗い物を終えて戻ってきた使用人は、寝てしまった月詠に気づいて運ぼうと手を出したが、冬鬼はそれを遮る。
「俺が運ぶ」
冬鬼は、眠った月詠を抱き上げる。
起こさないようにそっと部屋まで運ぶと、優しく寝かせた。
月詠の寝顔を見つめていると、冬鬼はこみ上げる気持ちを抑えきれなくなった。
いけないと思いつつも、月詠に口づけを落とした。
月詠は目を覚まし、驚きながらも冬鬼の行動を受け入れた。
最初は触れるだけのキスであったが、離した時に月詠と目が合い、それでも抵抗する素振りを見せないことをいいことに、何度も唇を押し当ててしまう。
月詠の唇は柔らかく熱を持ち、とても官能的で離したくなくなる。
次第に口づけは深いものへと変わっていった。
チュチュッと音を立て、月詠の唇を軽く吸って感触を楽しむ。
「ん……」
月詠の鼻から息を抜くような甘い吐息が漏れ、冬鬼は止まれなくなってしまう。
見つめる月詠の瞳は少し濡れているが、嫌悪感を感じている様子はなかった。
冬鬼が唇を寄せる度に、月詠は瞳を閉じて受け入れてくれる。
それが嬉しくて、冬鬼は何度も月詠の唇にチュチュッと吸い付くのだった。
「冬鬼様……」
「月詠、俺とのキスは嫌ではないか?」
少し昂ぶりが落ち着き、今更であるが月詠に尋ねる。
頬を赤く染めた月詠は小さく「はい」と答えた。
冬鬼は月詠を抱きしめる。
冬鬼は、順番を間違えたとは思うが、月詠に正直に話すことにした。
舞踏会で嫉妬してしまったことだ。
「舞踏会でのことだ。月詠が他の男と踊るのが嫌だったのは、お前を誰にも渡したくないと心から思ったからだ。俺はお前を愛している。1年とは言わず、ずっと夫婦として過ごしてほしい」
そう、月詠への愛を告白した。
冬鬼の真剣な眼差しから月詠もその愛を理解する。
「私は、冬鬼様とずっと一緒にいても良いのですか?」
離縁しなくても良いことが、月詠にはすごく嬉しく感じた。
冬鬼とずっと夫婦でいられる。
それはすごく幸せなことだと感じる。
「ああ。一緒にいてくれるか?」
冬鬼は月詠の手を握りしめ、瞳を見つめる。
月詠の瞳には冬鬼がしっかりと映っていた。
「はい」
月詠は笑みを見せ、頷くのだった。
その夜、二人は初めて夫婦として夜を過ごした。
冬鬼は月詠の小さな身体を優しく抱きしめ、彼女への愛と大切に思う気持ちを伝える。
月詠もまた、冬鬼の温かさに包まれ、人魚島で感じた孤独と恐怖が、すべて溶けていくのを感じるのだった。
翌朝、二人は同じベッドで目覚める。
冬鬼は隣に眠る月詠の穏やかな寝顔を見て、彼女こそが自分の生涯の伴侶であると改めて確信した。
そして、二人の間には、これまでの契約結婚では決して生まれなかった、真の夫婦としての絆が芽生えるのだった。
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