第8話
滞りなく授業は終わり、生徒が帰ってがらんとした教室でアルバイトの講師たちは片付けをしている。
彩音は、三か月ほど前に採用された
そっと歩み寄り、声をかけた。
「宇居くん、今ちょっとだけ大丈夫?」
「お疲れ様です! ちょうど片付いたんで大丈夫っす」
「よかった。 どうかな、もう慣れてきた?」
「そっすね! 結構いい感じです!」
大学一年生の恭弥は、まだどこか幼さの残る明るさがある。生徒と一番年が近い上に彼の朗らかな性格からか、和やかな空気で授業を進めている印象があった。
くだけた口調はいい方向に作用することも多い一方、たまにだらけた雰囲気になってしまうことがあるので彩音は少しはらはらしながら日々見守っているのだが。
「そうだよね。授業してるの見てても、生徒も楽しそうだし。今日は木野崎さんの授業が多かったかな」
「ですねー。今日も頑張ってましたよ」
高校受験を控えた中学三年生の
しかし、体験授業で何人か講師をつけた中で、朱里が恭弥することを強く希望した。生徒の希望は無視できず恭弥が担当することとなり、そのまま現在に至る。
振替授業は他の講師がつくこともあるが、基本的には恭弥が担当していた。
「夏休みの間も頑張ってたし、今月末の模試でいい結果が出るといいけど」
「そうですねぇ」
夏休み明けからは、毎月のようにどこかしらの企業が模試を開催している。秋以降の模試結果は進学先選びに大きく影響するので、どうしても結果が気になってしまう。
「今の感じだと、第二志望は確実いけそうだけど、うーん」
「第一は厳しいかな……? 宇居くんはどう思う?」
「どうですかねぇ」
実は先日面談で時間をとられた相手が、朱里の母親だった。母親はどうしても朱里を第一志望に掲げる高校へ入学させたいらしい。
同席していた朱里の真意は掴めないが……。
「ま、でも模試にはだいぶ気合いれて臨むみたいだし、支えるしかないっすね」
「そうだね、うん。困ったことがあったら、何でも言って」
「了解です!」
手早く荷物をまとめ、お疲れ様でした、と恭弥は塾を去った。後に続いて、他のアルバイトも塾を出ていく。
残っているのは颯真と彩音の二人だった。
彩音が受付に戻り事務作業をしていると、颯真も帰り支度を済ませたらしくカウンター前にやってきた。
「あ、川澄くんも帰る? お疲れ様」
お疲れ様です、と小さく口元で言い、少ししてから躊躇いがちに続けて言葉を発した。
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