可惜夜

しちめんちょう

可惜夜

君のその 影を踏みたる 放課後の

柔らかすぎる 西陽にしびを避けて


名前さえ 呼べずに伸ばす 指先に

夏の風だけ わずかに触れる


僕の手を さらりと撫でし 君の髪

またたきのたび 過ぎぬ可惜夜あたらよ


信号の 赤に染まりしほおふたつ

言いかけた言葉 ふわりと消えて


君がいま 息をひとつぶ 飲み込めば

それが答えと わかってしまう


時計見る 僕の視線を 追うように

君のまつげが わずかにふる


「帰りたくない」 口に出せずに 旋風つむじかぜ

過ぎるベンチの 木洩れ日だけが


開け放つ 窓にふたりの 影ゆれて

名を呼ぶ前に 夜はほどけて


君の髪 まだ指先に 残りいて

柑橘かんきつが 夜風にまじる


待宵まつよいに 余韻包ませ 書く手紙

てきす言の葉 見当たらなくて

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可惜夜 しちめんちょう @Turkeyturkeysandwich

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