第10話 「アシャンティの名の下に」
「そろそろ、だろうか。」
大体のことは向こうの女王から聞いている。
なんでも外国の窃盗団がトロッコで荒らし回っているらしい。
辿る道のりから察するに、次は私のところに来るようだ、と言っていた。
ならん。
何か盗られるかもしれない。
多少はまだ許せるが、これだけは譲れない。
『黄金の床几』。
私にとっての、全ての生ける者・死せる者にとっての、アイデンティティ。
盗られてはならん。
何としても、守り抜かねばならん。
私は、正座から立ち上がり、『黄金の床几』の隠してある間から、外へと歩き出した。
「この辺りだろうか。」
辺りを見回す。
今のところ、それらしき影はない。
遥か遠くで微かに、弦楽器の音がするだけだ。
ゴジェだろうか。
―― 弦楽器ねぇ。
「……………来るッ!!」
感じてから、姿が見え、こちらに来るまでには時間がかからなかった。
凄まじい勢いだった。
携えていた王の剣・アソンフォフェナを手に、トロッコに立ち向かう。
トロッコに正面から斬りかかった。
「わぁ!?なに、なに!?人!?」
「いましたよね、今ね!!」
「誰だろうな。」
外した、止まらないか。
もう一回だ、次は車輪を狙おう。
「おい、フランス。俺に運転変われ。」
「はぁぁぁ!?、今ぁぁぁ!?」
「黙れ。俺に任せろ。」
「イヤだよ!!キミ、運転荒いでしょう!??」
素行の悪そうな男が、良家のお坊ちゃまのような運転手から、強引にハンドルを奪おうとしている。
もたついている。今だ。
仕留める。
トロッコごと横転させて、一網打尽だ。
「はぁぁぁっ!!!」
左の車輪に斬りかかった。
その瞬間だった。
「やめてぇぇぇ!!!死にたくなぁぁいッ!!!」
子供のような叫び声がした。
もしかして、子供がいるのか?
いや、これも此奴らの作戦か?
それにしては、どうも嘘には思えぬ悲鳴だった。
迷ってしまった。
油断、ではないが、刀を振る手が動かず、車輪に穴を開けることはできなかった。
そして、
「オラッ!!」
時宜を得たように、運転手が交代してしまった。
と、同時に、トロッコはこちらに方向を少し変えた。
「くっ……!?」
剣が手から落ちる。
なんとかトロッコからは避けることができた。
が、向かって行く方向の運が、悪かった。
「危ないじゃないか!!」
「うるせぇな、それより…………建物が、あるじゃねぇかァ。」
「………本当だねぇ。」
「何かあるかもな。」
「行っちゃいましょう!!」
「ダメだよ!!お兄さんたち、誰だか知らないけど!!!そこは……、!!」
「ガーナさんの家だよ!!!、」
「教えてくれてありがとな、小僧!!!」
「やめろッ、その場所は………!!!」
体が、動かなかった。
……まあ、どうせ動こうが、追いつけない。
もう、為す術が無かった。
衝突し、崩れる音がした。
瓦礫が草や土と巻き上がり、中にあった宝物ごと竜巻の如く飛ばされるのが見えた。
見えたが、見ていられなかった。
手前に視線を落とすと、斬ろうとした車輪に折られたアソンフォフェナが、虚しく落ちていた。
鼓膜が破れたのだろうか、音はもう聴こえなかった。
再び顔を上げると、半壊した建物、空になった内側が露わになっていた。
「…………!!!!」
待てよ。
ということは、『黄金の床几』は………!
消えていた。
盗まれたのだ。
「………………、まさか…………。」
あぁ、母よ。死せる者たちよ。申し訳ない。
貴方たちのように、守り抜くことは、できませんでした。
残された者として、貴方の息子として、天に向ける顔もございません。
いっそ、呪術の作用か何かで死んでしまいたい。
呪術、ねぇ……。
彼が居れば、まだ、違った今日だったのかも、しれないな……なんて………。
不甲斐なし……不甲斐なし………。
全てを失った男・ガーナはただ、喪失感と罪責感の中、サバナの草地に倒れ込んでいた。
草に溢れた涙は、頭上の熱帯雨林に降り注ぐ雨のように、長草と赤黄色土の大地を濡らしていた。
【主な獲得物】
・アシャンティ王国 黄金の床几
(ガーナにて)
ジオ擬人化。 初空 林檎 @MewskyAppl3
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