第6話 「上陸大作戦」

早朝の地中海 - ジブラルタル。


「ムリムリムリムリムリムリムリ!!!」


巨大な一枚岩を滑走路に宙へ駆け出した1台のトロッコがあった。

さながら明けの明星のようだった。


「いぃぃぃやぁぁぁあああああッッッ!!」

「うおぉっ」

「ははっ」

「うわぁ……!」

「最高だぜぇッ!!俺らは空を飛んでるんだァ!!!」

「ぎぃゃぁぁぁぁぁああああ゛あ゛!!!…………、」


助走が長かった分、滞空時間もそれなりには長いが、一つの海峡を飛び越えるとなると、流石に少し怪しい。

綺麗な弧を描いていたトロッコの軌道が斜め下に傾いていく。

真下はまだ海だった。


「うぉおおおおお!!!ひゃっほぉぉぉおおい!!!」

ブゥゥゥゥゥゥン!!!


空は明けゆくのに、未だテンションは深夜なヤンキーが、古めかしいトロッコに自ら取り付けた立派なマフラーから良い音を轟かせていた。

落ちかけていた軌道が戻る。

目指すセウタのモンテ・アチョには雨上がりの水たまりが残っていた。


ズタッ

無事に着地したトロッコはまた猛スピードで走り出す。


「……………〜〜〜ッッどこが最高なんだ!!!こんなリスクのある方法で海峡を渡るなんてどうかしてる!!!」

「黙れ殺すぞ」

「それしか言わないねぇ!!イギリスくん!?」

「チッ、せっかくこの為に貴重な蒸気機関車の貨車を改良してやったのに……。」

「いやいやいや、自作のトロッコでなんて危なすぎる!!!船は無かったのかい、船はァ!!!」

「あ?んなもん退屈しちまうだろ?」

「ボクはそれで良いんだよ!!それが良いんだよ!!!」

「ゴチャゴチャうるせぇなぁ、もう渡れたんだから良いだろう。」

「そうだぞ、フランス。お坊ちゃんには分からないかもしらないが、男の子ってのは普通こういうもんだ……、多分……。」

「自信持ってくれない?」

「そうだよなぁー??やっぱり俺の相棒はポルトガルしかいねえわぁー!!!フランス、お前はぶちのめす」

「ホンットにボクにだけ物騒だね!!?!」


「……まぁ、実際はもうちょい身軽だったはずなんだがな。何故付いてきた、ベルギー。」

「ははっ。いやぁ〜、良いじゃないですかぁ、せっかくの遠出なんだし、旅行させてくださいよぉ。今回は、喧嘩する程仲が良い貴方がたの監視も兼ねてますから、なんちゃって。」

「あ、キミ。ボクの荷物持ちね。」

「えぇ!なんでぇ!!!」

「気に入らないなら余所者は帰りなさい。」

「いや、どう帰れと……?」

「帰り方はどうにでもなんだろうよ。」

「きっと可愛いお前の弟たちが待っているぞ?」

「ポルトガルさんまで……。弟たちは置いてきましたよ、僕、長男なんで。ここは僕が。」

「けっ」

「はっ笑」

「ふーん」

「なんかもうちょっと反応欲しい!!!」


「まぁ、荷物持ちが多い分にはいいや。俺も連れてきたから。なぁ、ドイツ???」

「あ、あぁ、うん……。」

「おいおい、テンションが低いぞ?この俺にこんな遠いところまで連れてきて頂いたんだ、感謝しろよ??」

「へへ……、ありがとう、ございます……。」

「はっはっは!!もー気分が良いや!!このままそこの館に突っ込むぞ!!ついでになんかパクれ!!!」

「えぇ……!?そんな強引に行くのかい!?」

「ったりめぇだァ!!」

「全く凄まじいなぁ、イギリスは。」

「手段が盗賊ですね。」

「うわぁ………。」


バカァァァァァン

壁が突き破られる。


ガシャァァン

ガラスケースが叩き割られる。


「なんだこのボロいローブ。こんな古めかしいの着れんのかぁ?」

「おぉ、凄いじゃないか! 王族 のやつみたいだ!!」

「とりあえず、服はゲットみたいだな。」

「後でボクにも着せてね。」

「お前は天才にしか見えねぇマントで充分だ。」

「ボクを素っ裸にする気かい!?」



【獲得物】

・王族のカフタン マウレタニア製

 (現在はモロッコの居城にて所蔵)



――彼らヨーロッパの猛進撃は、留まることを知らない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る