第19話 終焉ノ刻

夜が明けようとしていた。

崩れた町の屋根に、赤い陽が滲む。

血を洗うような光の中で、男がひとり立っていた。


斬牙。

破れた上着からは血が滲み、片腕はもう動かない。

傍らには黒丸。息はあるが、目を閉じたまま動かない。


風が止み、遠くから“刀が鳴るような音”が響いた。


斬牙「……来たか」


瓦礫の向こうから、屍王アラミツが現れる。

無数の屍を従え、手には黒く染まった刀――斬牙の前世の刀、「黎月」。


アラミツ「夜は明けた。だが貴様らの世界はここで終わる」

斬牙「……終わらせねぇよ。俺の仲間も、俺の魂も、まだ生きてる」


アラミツが刀を構えた瞬間、屍の軍勢がうねるように襲いかかる。

斬牙は血まみれの身体で、ただ前へと踏み出した。


刀と刀がぶつかる。

一閃ごとに、地が裂け、風が唸る。



倒れかけた斬牙の脳裏に、ひとつの声が響いた。


師の声「命は刃に宿るものではない。想いに宿るのだ」


瞼の裏に浮かぶ、仲間たちの顔。

笑顔。涙。黒丸の鳴き声。

そして――夜明けの刀音。


斬牙「……そうか。まだ、守りきってねぇ」


彼は立ち上がった。

折れた刀が、淡く光を帯びる。

黎月の魂が、彼の手の中で再び脈を打つ。


斬牙「行くぞ――これが俺の最後の一閃だ」



斬牙が踏み込む。

風が裂け、屍王の軍勢が光に呑まれる。


アラミツ「貴様のその刃……何を守るために振るう!」

斬牙「“生きる”ためだ!」


渾身の斬撃が、アラミツの胸を貫いた。

光が爆ぜ、屍王の体が崩れ始める。


アラミツ「……やっと……終われる……か……」

斬牙「次は……人として生まれ変われ」


屍王は微笑んで塵と化した。



静寂。

朝日が地平を照らす。

斬牙は膝をつき、空を見上げる。


斬牙「……やっと……夜が明けたな……」


黒丸が弱く鳴き、彼の膝元に顔を寄せる。

斬牙の唇に、かすかな笑みが浮かぶ。


光が差し込み、二人の姿がゆっくりと白に溶けていく。

地面に残ったのは、ただ一本の刀――黎月。

その刀身に、朝日の光が反射していた。



――魂は、終わらぬ。

夜明けの音を聴く者がいる限り、斬牙の意志は生き続ける。


第一章『斬牙』――完。

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斬牙 -ZANGA- 高校生と黒犬の記憶 @YUKIYADA

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