第16話 黒鉛の中の影

夜の町を包む静けさを破り、不気味な呻き声が路地の奥から響いた。

斬牙は刀の柄に手を掛け、気配を探る。


「……来たな」


次の瞬間、路地の奥から黒煙のようなものが噴き出し、その中から異形のゾンビが姿を現した。通常のゾンビとは違い、全身が煤けたように黒く、瞳だけが赤く光っている。


「……ただのゾンビじゃねえな」

隣で構える迅(じん)が唾を飲み込む。


斬牙の耳に、かすかな囁きが聞こえた。

――“斬れぬものなど、ない”――


前世、侍だった己の魂が目覚めるように、刀が震える。


黒煙のゾンビが吠え、地面を割るほどの勢いで突進してきた。

斬牙は踏み込み、迷いなく斬り伏せる。だが、切り裂かれたはずの肉体は黒煙となって再び形を成す。


「くそっ、再生するだと!?」迅が叫ぶ。


斬牙は瞳を細めた。

「……刀の光を信じろ、そう言っているのか」


深く息を吸い、刀に気を込める。刃がわずかに青白く輝いた。

次の一撃。振り下ろされた刃は黒煙ごとゾンビを両断し、煙は苦しげな叫びを残して消え去った。


「……やはり、この刀は“呪い”と“力”の両方を宿している」


斬牙は刀を鞘に収める。その背後で、さらに濃い黒煙が立ち昇った。

姿を現したのは、フードを被った人影。


「お前か……ゾンビを操っていたのは」


人影は低く笑った。

「斬牙……前世の侍よ。お前の血こそ、我らが望むものだ」


――新たな因縁の幕が上がろうとしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る