第四章(最終章):月より見守る不死山

語り:かぐや



月の宮の窓辺に立ち、私は遠く地上を見下ろしていた。


千年の時を経ても、青い星は静かに回り続けている。

その中に、ひときわ高くそびえる山がある。


「不死山(ふじのやま)」――

かつて帝が、不死の薬を炎にくべた場所。


今では“富士山”と呼ばれ、人々に愛されている。


あの山は、今も変わらず空へ手を伸ばすように立ち続けている。


風が運ぶ香りは、遠い日の記憶をふと呼び起こす。


帝がその手に持っていたのは、永遠の命。

けれど彼は、それを選ばなかった。

それはただの拒絶ではなく、私への深い愛の証だった。


――彼が選んだのは、生きることではなく、

想いを抱いたまま、終わりを受け入れること。


私が地上にいたあの頃、

彼がくれた微笑みも、言葉も、すべてが今も胸に残っている。


あの時私は、帝の未来に光を灯すために薬を託した。


だが、彼は――私のいない永遠よりも、想い出を胸に、限りある生を選んだのだ。


けれど今――私は、はっきりと感じている。


彼の魂は、地上で幾度も生まれ変わりを繰り返しながら、

ゆっくりと、けれど確かに――高次の扉へと近づいてきている。


人としての痛みを知り、愛を知り、悔いを知りながら、

彼は確かに“真の月の都”へと続く道を歩んでいる。


そして――もう、すぐそこまで来ている。


私は信じている。

千年を越え、時空を越え、魂が成長を遂げたそのとき、

きっとまた、私たちは巡り逢える。

かつて交わらなかった未来は、

やがて交わる運命となって、その未来はきっと交差する。


この宇宙(そら)のどこかで、ふたたび導かれるように――。


その日まで、私はここにいる。

静かに、変わらぬ想いを胸に抱いて。



~おしまい~




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竹取物語~千年の追憶~ 山下ともこ @cyapel

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