最終話「失楽園」
――月が天高く昇る深夜、カレッジ率いる931小隊はエデン地区脱出の準備をしていた。
メンバーは931小隊のカレッジ、アンジェラ、ジュイン、マグノリア、ゲイル、アイリス、ウォレンの7人。
そして、武器商人アルから紹介してもらった道案内役のメッセンジャーと、移動を楽にするために
彼らが待機している車庫に行くと、あるの隊員がM113装甲兵員輸送車の点検をしていた。
「 お? お前らが例の931小隊か?」
威勢の良い声が車庫に響く。近づいてきたのは20代後半の力強そうな男性だった。
「あなたが第07機甲歩兵小隊の……?」
「そうだ、俺が第07機甲歩兵小隊の隊長であり、この装甲車の車長……アドナ・エイブラムスだ」
「お前たちの話は聞いてる。反対派からの襲撃があるかもしれないのに、躊躇なく実行するその度胸……気に入ったぜ」
「ありがとうございます。この装甲車で行くんですか?」
「ああ、弾薬と燃料、医療品をありったけ積んでいく。搭乗席に11人乗れるし、上にも荷物を積めるから安心しな」
「助かります……!」
するとアドナは突然車体の下を覗き込んで声を掛ける。
「おいティム! 車体に異常はねぇか?」
声を受けて、車体下部からキャスター台に寝そべって点検していた隊員が出てきた。猫耳のついた若いダアド人の青年だ。
「バッチリっすよ車長! 異常なしです!」
「コイツは操縦士のティムだ。若いが腕が立つし、体力もある。きっと役に立つぞ」
「こんにちは! ティム・クリフォードっす! しっかりみなさんを運びますんで! どうぞよろしくお願いします!」
元気のよい明るく陽気な声が木霊した。
「では……準備が出来次第、夜明けと共に出発するので、いつでも動かせるようにしておいてください」
「おうよ! 任せときな!」
「頑張るっす!」
自信のある2人の返事にカレッジは安心して車庫を出て行った。
次に向かったのは、アルが呼んでくれたメッセンジャーだ。危険区域を避けて通るには、案内人なしでは到底不可能だからだ。
指定された場所に着くと、一台のバイクが停められていた。2人乗りのタイプで、大きなトランクケースが積まれている。
「……あなたが依頼人ですか?」
後ろから声が聞こえる。振り返ると、少し小柄なトレンチコートを来た美少年がいた。いかにも、旅人という雰囲気だ。
「君がアルが紹介してくれたメッセンジャーか?」
「ええ、私がメッセンジャーのルカです」
「ノアーズシティまで安全に行けるルートは見つかったかい?」
「いや……なんとも言えないです。今まで2つのルートが存在したんですが、1つは汚染区域の拡大で、もう1つは盗賊の被害で潰れてます」
「それじゃあどうやって……」
「新ルートを模索してみたんです。そしたら、1ヵ所だけ通れそうな所を見つけました。汚染地域をできるだけ避けつつ、盗賊やゲリラに襲撃されにくいルートです」
「よく調べたね……」
「仕事ですから。もちろん、代金は頂きますよ」
「保証するさ、よろしく頼むよ」
「では、準備がてきたらまた呼んでください」
――これで、すべての準備が整った。
カレッジはシェルターに戻り、脱出への最終確認をした。
「全員、準備はいいか? もう帰れないかもしれないぞ」
「大丈夫です、マスター」
「大丈夫だ、ようやく偽りの楽園からおさらばだぜ」
「一部の人を残すのは心苦しいけど……覚悟はできてるよ」
「問題ありません。キレート剤も装甲車に詰めこんでもらいました」
「僕も、準備完了です」
「いつでも行けるぞ、カレッジ」
931小隊の面々は覚悟を決めた。一度も出たことの無かった外の世界。まるで、鳥籠の外に初めて出る小鳥のような気分だった。
「行こう。ここはもう、僕たちが守るべき楽園じゃない」
931小隊はシェルターから出ると、シェルター前に停めてあった装甲車へ乗り込む。
「運転お願いします、アドナさんとティム君」
「任せとけ、未知の旅といこうか……!」
「なんか……僕ドキドキするっす!」
装甲車の前には、ルカがバイクに乗って様子を伺っている。
「私についてきてください。はぐれないようになるべく低速で走ります」
「……出発してくれ」
朝日が水平線から顔を出す直前、バイクと装甲車が動き出し、太陽に向かって走り出した。
まだ暗い道を進み、遂にエデン地区の防壁を抜けて、外の世界へ飛び出した。
「……出たな」
「……出ましたね」
みんな、なんとも不思議な気持ちで装甲車の中に座っていた。マスターは上面から車上へ身を乗り出した。
迎えたのは、真っ赤に燃える血潮のような太陽だった。微かに、晴れやかな気分になったのは気のせいだろうか。
こうして――931小隊は、楽園を抜け出した。彼らの進む道に、救いなどあるのだろうか?
――それでも、彼らの意志は固かった。
第2章「瓦解した楽園(後編)」完
次章、第3章「生き延びし永久(とわ)の森」
――To Be Continued……
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