あの夏の秒速11.1m

東井タカヒロ

あの夏、僕らは

 あの夏、僕らは確かに見たんだ。

 秒速11.1mで動く僕らを。


 日常は、いつもすの姿を変え、僕らにその姿を晒す。


 日常の鼓動が僕らに共鳴して、この夏をより熱くする。


 あの日行った場所、あの日言ったこと。


 その全てが僕らの夏を動かす。


 友人、彼女、そして、青春。


 その全てがかけがえのない夏で、僕らの体に刻まれる。


「おーい拓哉!早く帰ろうぜ」

「おう!」


 そして、今年が最後の夏休みだ。

 毎年大量に残る宿題、反比例する楽しい思い出。


 その全てが僕らを作るんだ。

 あの日見た、打ち上げ花火。

 あの日見た君の横顔。


 この夏、僕らは駆け足で、ゆっくりとこの夏を謳歌する。


 イベントに参加したあの日。

 デートをしたあの日。


 思いだせる夏は、そう長くは持ってくれない。

 カゲロウのように、短い夏だ。


「拓哉、アイス買っていこうぜ」

「俺、メロン味のシャリシャリ君買うわ」


 僕らの日常は、夏というコーティングで、より、輝く。

 その夏は、どの夏よりも美して、この世界に、夏を残すだろう。


 この夏の僕らは、秒速11.1mで、駆け抜けていた。

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あの夏の秒速11.1m 東井タカヒロ @touitakahiro

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