××のミライ

K

第1話 駆け出し注意

踏切の警報がまた鳴っていた。

真夏の太陽がアスファルトを揺らし、じっとりとしながらべっとりと表皮を焼き焦がす。

駅へ続く裏道の角、僕は小さな影に目を留めた。


 幼い男の子が、ランドセルを揺らしながら線路に向かって駆けている。

母親らしき女性が「ダメ!」と叫び手を伸ばすが届かない。


真尋は息を吸った。


──3秒先。


視界が切り替わる。

彼女の“目”は未来の一点を捉えていた。


《小さな長靴が線路に落ちる。

 その0.2秒後、赤い電車が突っ込んで__》


焼くような光が現実へと引き戻す。


「ッ、待って!」


僕は反射的に走り出していた。


角を曲がり、叫びながら子どもに飛びつくようにして抱きつき、ランドセルを掴む。


二人が地面に転がったほんの数秒後、電車が轟音とともに通過していった。


静寂の中、子どもが泣き出した。


母親が駆け寄り、何度も頭を下げながら礼を言う。


真尋は小さく首を振って答えた。

いつものことだから、と言わんばかりに。


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××のミライ K @huzihuzikarin

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