第2話:『朱色の対立』
SCENE 1:大学生活とデュオ活動
【場所:西東京大学 寮・田尻幸太の部屋/昼】
たじりんはギターを抱え、新しく作り始めた曲のコードを鳴らしていた。
ふと窓の外を見ると、満開の桜並木の下を、たくさんの学生たちが楽しそうに歩いている。
たじりん:「まじか…もう入学式から一週間か。早ぇな…」
部屋の扉がノックされる。
たじりん:「はーい、どうぞー!」
ふかりんが部屋に入ってきた。
手にはコンビニの袋を持っている。
ふかりん:「たじりん、お昼ごはん買ってきたよ!ほら、あんたの好きなツナマヨおにぎり!」
たじりん:「おお、さすが!ふかりん、俺の胃袋を完全に読んでるな」
ふかりんは微笑みながら部屋に入り、ふと隅に置かれたドラムセットに目を止める。
ふかりん:「…たじりん、ほんとにドラムの龍也くんって子とルームメイトなんだね」
たじりんは大学に入ってから以前以上にふかりんと頻繁にメッセージ交換していて、寮が相部屋で相手がドラマーだということは伝えてあった。
たじりん:「うん。まあ、あいつは部屋にいる時間少ないし、全然気になんないけどね。龍也にバンド組まないか、誘ってみたけどあんまり乗り気ではないみたい」
ふかりん:「そっか。でもさ、二人でやるのも悪くないと思うよ。デュオってさ、なんか特別感あるし」
ふかりんはバッグからノートを取り出し、そこに書かれた文字を見せた。
ふかりん:「『フータジ』。……どう?」
たじりん:「もう名前まで考えてたのかよ!」
ふかりん:「ふふっ、思いつきだよ。でも……あんたと組むなら、これがいいなって」
ふかりんの笑顔はどこか照れくさそうで、まっすぐだった。
ふかりん:「でも、たじりんがやりたいようにやるのが一番だよ。私はいつでもあんたの味方だから」
田尻の胸が、じわりと熱くなる。
……こんなの、意識するなってほうが無理だろ。
SCENE 2:アンエリオの始動
【場所:千葉総合大学 寮・安東莉子の部屋/夜】
あんりんの部屋は、壁一面が本棚になっている。
文学書や詩集がぎっしりと並べられており、部屋全体が知的で落ち着いた雰囲気に包まれていた。
あんりんはパソコンに向かい、小説を執筆している。
その横には、えりりんが隣の部屋から持ち込んだDTM機材が並んでいる。
えりりん:「あんりん、この小説の登場人物の心情に合わせたBGM、作ってみたんだけどどうかな?」
あんりんはヘッドホンを装着し、目を閉じて音楽を聴く。
静かで、どこか物悲しいピアノのメロディーが、彼女の心に深く染み渡っていく。
あんりん:「すごい…!小説の世界観が、そのまま音になってる…」
えりりん:「でしょ!私のDTMの腕も捨てたもんじゃないでしょ!」
えりりんの屈託のない笑顔に、あんりんは思わず微笑んだ。
えりりんは、高校時代に引きこもり気味だったとは思えないほど、大学では明るく活発だった。
それもあんりんという良い隣人ができたからだろう。
えりりん:「ねぇ、あんりん。私たちでユニット組んでみない?やってみない?『アンエリオ』として!」
あんりん:「でも、私…」
えりりん:「分かってるよ。歌うのはあんりんじゃなくて、私でもいい。あんりんは言葉を紡いで、私は音を紡ぐ。二人で、最高の音楽を作ろうよ!」
えりりんの言葉は、あんりんの心を強く揺さぶった。
歌うことはあんりんにとって以前から大きなコンプレックスだった。
しかし、えりりんの「あんりんは言葉を紡ぐ」という言葉は、彼女の才能を認めてくれたようで、嬉しかった。
あんりん:「…ありがとう、えりりん。せっかくだし、やってみようかな…」
えりりん:「憧れのあんりんとユニット組めるなんて最高!大学生活、最高!」
えりりんは無邪気に天に腕を突きあげて叫び、あんりんはそれを見て穏やかに微笑んでいた。
二人は、こうして「アンエリオ」として音楽を始めることを決意した。
SCENE 3:対立と再会
【場所:西東京大学 音楽サークル棟/夕方】
たじりんとふかりんは、大学でも音楽サークルに入った。
といっても新たに作ったサークルなので、メンバーはわりと知った仲間ばかりではあるが。
たじりん:「ふかりんは相変わらず外面が良いよな。ただ、部室来た途端、部屋着みたいな格好になるのはやめとけって。一応、他のメンバーも来るんだぞ」
ふかりん:「このほうがギター弾くのにやりやすいんだよ!別に今はたじりんしかいないんだから良いだろぉ!」
たじりんが、いつも目のやり場に困っているのは、高校の寮の時と変わらずだ。
そんな二人はいつもの距離感で、ライブハウスで開催される対バンライブのチラシを見ていた。
たじりん:「へぇ…『大学新入生限定対バンライブ』だってさ。出てみる?」
ふかりん:「いいじゃん!『フータジ』初舞台だね!」
たじりんがチラシをよく見ると、出演者の中に、見覚えのある名前があった。
田尻:「…え?『アンエリオ』?」
ふかりん:「わぁ、ほんとだ!あんりんたちも出るんだ!」
ふかりんはあんりんともたまに連絡をしていて、アンエリオというユニットを組んだことは聞いていた。
そんなサークル部屋に、龍也が現れる。
龍也:「おお、お前ら、このライブに出るのか?」
龍也は忙しくしていて滅多にサークルに顔は出さないが一応、このサークルに所属していた。
たじりん:「ああ。龍也も出るの?」
龍也:「…いや、俺は出ねぇ。二人がここでやってるなら、俺は寮で練習するわ。じゃあな!」
たじりんは、龍也はふかりんのことが苦手なのかな?と感じていた。
そんな頃、龍也は急ぎ足で寮に戻っていた。
龍也(小声):「……あんな格好でギター弾かれたら、集中できるかよ……」
龍也には龍也のコンプレックスがあるようだ。
そしてライブ当日。
まずは「フータジ」がステージに上がる。
たじりん:「ふかりん、フータジのファーストステージ、楽しんでいこう!」
ふかりん:「そうだね!まずは自分たちが楽しまなくちゃね!」
ふかりんがエレキギター、たじりんがエレキベースとアコースティックギターを使い分け、トリコロール時代の楽曲も含めて何曲か披露した。
まだデュオ構成に慣れないところはあるが、久しぶりのライブは楽しく、お客さんもトリコロール時代を知ってる人もいて楽しんでくれたようだ。
そして、何組かを挟んで、「アンエリオ」がステージに立つ。
あんりんは相変わらず緊張しているようだ。
あんりん:「えりりん、私上手くできるかな?」
えりりん:「部屋で演奏してるような気持ちでリラックスして!私がいつでもサポートするから、あんりんは自由にね!」
そして二人の演奏が始まった。
フータジとは違い、アンエリオは全曲新作だ。
聴衆は最初こそ静かに聴いていたが、曲のノリの良さについ身体を揺さぶり始める。
あんりんの作る歌詞は相変わらず詩的で心に響く。
そして、それをえりりんの曲が見事に表現している。
演奏もあんりんの転がるような軽やかなピアノに寄り添うように、えりりんが自作のシンセサイザーとミキサーを巧みに操り、エレクトロニカサウンドを奏でている。
たじりんは、ステージの上で演奏するアンエリオを見て、驚きを隠せない。
たじりん:「すごい…!あんりんの詩の世界が、こんな音楽に昇華するんだ!」
ライブ後、あんりんはふかりんに近づいてきた。
あんりん:「ふかりん…。ごめん、急に私たちがライブに出るって言って。でも、また音楽を始めたいって思って」
ふかりん:「そんな全然!それよりも、あんりんの書いた詞が、えりりんの曲とめっちゃ調和してたよ!かっこよかった!」
あんりんは、ふかりんの言葉に照れくさそうに微笑んだ。
あんりん:「ありがとう。でも……やっぱり、私は歌えないままで…」
あんりんの言葉に、ふかりんは胸が締め付けられる思いだった。
そんな、あんりんの孤独な痛みと想いに、えりりんは少し気づき始めていた。
【続く】
次の更新予定
トリコロール2 - パレットの青春 - 真久部 脩 @macbs
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