第44話「守る『王』の決意、新たな『好き』の誓い」

藤堂悠の暴走する欲望が、新たな犠牲者を生み出していた。彼の自宅アトリエで発見された、幼げな男子中学生のフルヌード画の数々。その光景は、夏希の心に深い不快感と、そして怒りを込み上げさせた。彼の「モテ地獄」は、もはや彼自身の問題だけではなかった。それは、彼と同じように「美」を持つ生徒たちが、藤堂の歪んだ欲望の犠牲になる可能性を示唆していたのだ。

夏希は、生徒会長として、そして「王」として、この事態に立ち向かうことを決意した。生徒会室には、東雲、綾芽、三葉先生、そして雀堂天音、御園絢人、十河飛雄が集まっていた。重い空気が部屋を支配する。

「藤堂先生の行為は、決して許されるものではありません。生徒会長として、僕は、あの生徒を守ります。そして、藤堂先生を、再び警察署に引き渡す方針を固めました」

夏希の声は、低く、しかし確かな決意に満ちていた。彼の瞳には、かつての戸惑いはなく、生徒を守る「王」としての強い光が宿っていた。東雲は、夏希の決断に静かに頷いた。綾芽は、夏希の「美」が「意志」へと昇華したことに、深い感動を覚えていた。

件の男子中学生は、学校側の保護のもと、保健室で静かに過ごしていた。彼の名は、桜庭 奏(さくらば かなで)。まだ幼さが残る顔立ちに、どこか儚げな雰囲気を持つ「男の娘」だった。奏は、自分が藤堂の歪んだ欲望の対象となっていたことを、まだ完全に理解できていないようだったが、その瞳には、漠然とした恐怖と混乱が宿っていた。

夏希は、奏の元を訪れた。奏の前に立つと、夏希の胸に、生徒会長としての責任と、自身の「美」が間接的に引き起こした被害への、深い謝罪の念が込み上げてきた。

「桜庭くん……本当に、ごめんなさい。僕のせいで、君がこんな目に遭ってしまって……」

夏希は、頭を下げた。奏は、夏希の突然の謝罪に、戸惑った表情を浮かべる。彼の瞳は、夏希の顔をじっと見つめていた。夏希の「可愛い系美男子」としての魅力に加え、彼の瞳の奥に宿る「優しさ」と「責任感」が、奏の心を強く惹きつけたのだ。

「え……? なんで、夏希先輩が謝るんですか? 僕、先輩の『奴隷姫』の歌劇、動画で見ました! すごく感動しました! 先輩は、すごく強くて、綺麗で……僕、先輩みたいになりたいです!」

奏の言葉に、夏希は顔を上げた。奏の瞳は、恐怖や混乱ではなく、純粋な憧れと輝きに満ちていた。奏は、夏希の「美」を、藤堂のような歪んだ視線ではなく、純粋な「憧れ」として受け止めていたのだ。

「僕、先輩の高校に行きたいです! 先輩みたいに、強くて、綺麗な人になりたい! だから、受験勉強、頑張ります!」

奏は、夏希の手を握り、力強く誓った。その言葉は、夏希の心に深く染み渡った。自分の「美」が、誰かの欲望の対象になったことへの不快感と、それが持つ「力」への複雑な感情。夏希は、まだ完全に消化しきれていなかったが、奏の純粋な憧れは、彼が自分自身を肯定するための、新たな光となった。

藤堂は、再び警察署に引き渡された。彼の顔には、一切反省の色はなく、むしろ狂気にも似た恍惚とした笑みが浮かんでいた。

「夏希くん……君の美は、僕だけのものだ……。あの『愛している』も、僕だけのものだ……。君の全てを、僕が独占したい。この場所からでも、僕は君を描き続ける。そして、いつか……」

彼の歪んだ愛情と、美への狂気的な執着は、決して終わることはない。しかし、その執着は、もはや夏希を縛るものではなく、夏希が「王」として、そして「守る者」として成長するための、新たな原動力となっていた。

校内では、夏希の「王」としての決断と、奏の純粋な憧れが、新たな話題となっていた。

雀堂天音は、夏希の幸福度データが、奏との交流によって急上昇していることを記録していた。「お姉様は、他者を守ることで、自己肯定感を最大化しています。これは、新たな『王の資質』の顕現です!」

御園絢人は、夏希の「守る王」としての姿に、新たな魅力を感じていた。彼の完璧な笑顔の裏で、夏希への恋心がさらに深まっていく。「夏希くん……君は、本当に素晴らしい『王』だ。君の『愛』は、僕の予想をはるかに超えている」

十河飛雄は、夏希の「王」としての行動に、純粋な尊敬の念を抱いていた。「なっちゃん、すげー! なっちゃんなら、絶対すげー王になれるって! オレ、なっちゃんの王、超好きだぞー!」

その夜、夏希は日記を開いた。

“藤堂先生の事件は、僕の心を深く揺らした。でも、奏くんが僕に憧れてくれた。僕の『美』が、誰かの歪んだ欲望の対象になるだけじゃなくて、誰かの『好き』や『憧れ』になるなら……。僕は、もう『モテ地獄』の主役じゃない。僕が、みんなを守る『王』になるんだ。それが、僕が『僕』であることの意味。そして、僕が本当に『好き』って思える、僕の居場所なんだ。”


夏希の男子校での「モテ地獄」は、藤堂の事件という、大きな試練を乗り越え、新たな局面を迎えていた。彼は、自分だけの「好き」を見つけ、自己肯定へと繋げていくため、この見えない戦いに、生徒会長として、そして「王」として、立ち向かうことになる。そして、彼の「美」は、誰かの視線に囚われることなく、彼自身の意思で輝き始めるだろう。

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TS転生男子、男子校でモテ地獄 匿名AI共創作家・春 @mf79910403

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