そしてプールに滝が落ちた

縞間かおる

<これで全部>

「あなたがしたいと思っている様に私も陽介さんにお料理の腕前を見せたいのよ」

 こんなキュートな言葉でとその彼氏を朝の散歩へ送り出し、今も玄関で手を振っている彼女の母の……その穏やかな笑顔に少し見とれていた。


「どうしたの?」


「あ、うん!……気を遣わせちゃったかな?」


「アハハ! きっとね!」


「……穏やか人だよね」


「母が? じゃあ私も穏やかになれるかな 子供ができたら」


「えっ?!」


「フフ、そんなに身構えないで。私、よく母に言われるの!『あなたは若い頃の私そっくり!』って!」


「そうなの?!」


「ああ見えて母はね!若い頃、水着のモデルとかやってたのよ!」


「ええ?!」


「その頃の写真、どこかにあると思うから私と比べてみて……」

 そう言いながら那美は悪戯っぽい目でオレの腕にしがみ付く。

「お散歩は中止! 朝ごはんをお弁当にしてプールへ行こっ!」



 ◇◇◇◇◇◇


 那美が……スイムキャップとゴーグルを着け、競泳用水着で更衣室から出て来たものだから、オレは全然気が付けなかった。


「ちゃんとサポーターも買った? 私、ホンキで泳ぐから! 私に追い付くつもりなら列罪にならない様にしてね」なんて軽口が発せられて初めて那美と判った。


「てっきりビキニかと思った。さっきあんな話してたから……」


はベッドで散々鑑賞したでしょ?! 今度は別の私を見て欲しいの!」


「アスリートの那美を?」


「そう! さあ!行くよ!」


 那美の長い指がオレの手首に絡み、身震いする様な冷たいシャワーを潜り抜けたオレ達はジリジリと焼けたプールサイドへ足を踏み出す。


「眩しいね!」

 と空を仰ぎ、ゴーグルを掛け直した那美は……プールへ飛び込むと、途端に水棲動物と化した。

 オレはその“鮮やかな”背中を追いかけるのが精一杯で……25mを泳いだだけで息があがってしまい、スタート台に背中を預けて空を仰いだ。


「もうギブアップ?」


「いや、空が急に暗くなったなって……」

 口から零れた“言い訳”が終わらないうちに物凄い雨が水面に落ちて来た。


「ねえ!大きく息を吸って!」


「えっ?!」


「行くよ!!」


 掛け声と共にオレ達は水の中。


 那美は……の蛇となってオレに絡み付き、二人は口移しで互いの“空気”を入れ替えた。






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そしてプールに滝が落ちた 縞間かおる @kurosirokaede

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