31話 憎しみは、祈りから生まれる
夜の闇が東京の街を包み込む中、ユリはひとり静かに部屋の窓辺に立っていた。黒百合の御札を胸に抱き、深く息を吸い込む。外からは遠くで響く車の音、かすかな人の気配。日常の喧騒はまるで別世界の出来事のように感じられた。
「私にできるのかな……」小さな声で呟いたその時、ふいに視界の端に、揺らめく黒い影が映った。まるで空気がねじれるように、窓の外の世界が歪み、そこから何かがこちらを覗いている。
ユリは瞬時に身を低くし、体の中で熱いものが沸き上がるのを感じた。まるで自分の内側に眠る力が呼応しているようだった。
「エンド・フラワー……あなたは、まだ私の中にいるの?」
心の中で問いかけると、闇の中からささやくような声が返ってきた。
「破滅は救いだ……だが、貴様はまだその力の片鱗すら使いこなせていない。」
ユリの手の中で御札が微かに震え、部屋の中の温度が下がる。彼女は顔をしかめながらも、その声を恐れるより興味深く感じていた。
そんな時、遠く離れた廃ビルの中で、花弁の教団の教祖たちが密かに集まっていた。
「スイレンの未来視はまた、悪い知らせだったのか?」
ローズが冷たい眼差しで問いかける。
スイレンは苦い笑みを浮かべながら答えた。
「ユリが本格的に目覚める前に、何とか動かないと。だが、彼女の力は想像以上よ。私たちの計画が、少しずつ狂い始めている。」
シャクヤクが拳を固め、ロベリアは薄笑いを浮かべながら言った。
「ならば、私たちももっと動かねばね。彼女を依代にして悪魔を復活させるか、殺すか。どちらにしても、この世界の秩序は崩壊する。」
マリーは静かに呟いた。
「悲しみが世界を満たす……その時こそが来るのだ。」
ユリの覚醒は、ただの始まりに過ぎなかった。彼女と教団、それぞれの運命の糸は、激しく絡み合いながら終焉への道を歩み出していた。
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