30話 あなたが消えた朝
ユリが受け取った古びた御札を握りしめたまま、部屋の中の空気が一瞬変わった。彼女の中で、何かが目覚め始めていた。胸の奥で燻っていた黒い炎が、ほんの少しだけ強く燃え上がるのを感じる。
「おばあちゃん、これって…本当に浄化の力なの?」
不安げに尋ねるユリに、祖母は静かに頷いた。
「そうよ。あなたの役目は、この世界に蔓延る呪いを断ち切ること。ただし、力は使いすぎれば命を削る。だから、慎重に、そして強くならなければならない。」
一方、遠く離れた街の片隅では、花弁の教団のスイレンが未来視の能力である映像を追っていた。彼女の細い指先が震え、スクリーンのように視界に映る不吉な光景を押し殺そうとするが、どうにも消せない。
「悪魔の復活…止められない未来…?」
スイレンは苦しげに声を漏らした。未来視で見た未来の断片は彼女の心を焦らせた。
教団のほかの教祖たちも、それぞれの暗い過去と共に蠢き始める。憎しみのローズは拳を握りしめ、怒りのシャクヤクは冷たい瞳で街の灯りを見つめていた。彼女たちはまだ、ユリの存在を知らない。しかし、その運命の糸はゆっくりと、確実に結ばれつつあった。
夜風に揺れる黒百合の花言葉は「呪い」だった。
ユリはその呪いの花の中で、自分の宿命を受け入れ、闘いの第一歩を踏み出したのだった。
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