20話 「選ばれし者」たちの断罪

 夜の街灯がぼんやりと浮かぶ路地裏。

 ユリの足取りは迷いなく、けれどどこか重かった。


 あのローズのメッセージは脅しだろうか。

 それとも、単なる宣戦布告――?


 そんな彼女の背後で、ふいに風がざわめいた。


「……ユリ。」


 振り返ると、スイレンが淡い月光を浴びて立っていた。


「スイレン……なぜここに?」


「未来が見えたの。あなたが危険にさらされるのを。教団はもう動き出しているわ」


 スイレンの目はいつになく真剣だった。


「あなたは気づいていないかもしれないけど、教祖たちの心はそれぞれ違う。憎しみ、怒り、悲しみ、裏切り……でも、共通するのは全てが“負の感情”から生まれている」


 その声には、かすかな焦りと共に深い哀しみが混ざっていた。


「でも、彼女たちもただの“傷ついた少女”なのね……」


 ユリは思わずつぶやいた。


「その通りよ。だからこそ、あなたが彼女たちを救うことができる――それが、浄化の巫女としての使命よ」


 スイレンは静かに告げる。


「でも……私にはまだ、その力が覚醒していない」


 ユリの声には迷いがあった。


「覚醒はすぐそこ。だけど、それは“受け入れる”ことが必要になる」


 スイレンは未来視で見た光景の一端を告げた。


「あなたが過去の自分、そしてエンド・フラワーの呪いを受け入れたとき、初めてその力は真に目覚める……」


 ユリは夜空を見上げ、静かに頷いた。


「わかった。やるしかない……」



 その頃、教団の一室。


 赤いバラのように鮮やかな髪を揺らすローズが、冷たい笑みを浮かべていた。


「ユリ……お前を壊すのは時間の問題よ」


 しかし、隣にいるシャクヤクは眉をひそめていた。


「焦るなよ、ローズ。私たちはまだバラバラだ。このままじゃ力を合わせられない」


 ロベリアは薄く笑いながらも、心の奥に不安を秘めていた。


「罪悪感? そんなもの、私にはないわ。ただ楽しいだけよ」


 彼女の言葉が部屋に冷たい空気をもたらす。


「でも、みんな自分の過去に縛られている。だから、心のどこかで迷っている……」


 ダリアが呟いた。



ユリの覚醒、教祖たちの内面の葛藤、そして不穏な動き。

物語は動き始めた。

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