19話 禁忌の花園

 放課後の校舎裏。夕陽が長く伸びる影を染め上げる中、ユリはひとり静かに佇んでいた。

 胸の奥に、昨日スイレンから託された“白い睡蓮”の花びらがまだ冷たく残っている。


 彼女は自分の正体に、少しずつ近づいていた。


 ――封印された記憶。


 ある夜、幼い頃に見た夢。


 薄暗い寺院の奥、黒百合の花に囲まれた祭壇。

 そこには、祖母の姿があった。


「ユリ、覚えておきなさい。あなたは代々、悪魔エンド・フラワーを封じる巫女の血筋。だが、その力は時に、災厄の種となる」


 幼いユリに差し出されたのは、黒百合の髪飾りだった。


「これはあなたの力の証。だが使いすぎれば、体と魂を蝕む」


 夢の中の祖母の言葉が、今も胸に響く。


「私は、どうすれば……」


 独り言のようにつぶやくと、その時だった。


 校舎の向こうから、かすかな唸り声と共に、不穏な気配が迫る。


「――また、教団の者たちが動いている」


 背筋が凍る。


 そこへ突然、スマホが震えた。


 画面には「ローズからのメッセージ」とだけ表示されていた。


 中身はただ一言。


『終わりは、近いわよ。』


 ユリは強く握りしめた拳を解き、静かに夜の街へと足を踏み出した。

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